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貴方と背中を合わせる理由。(仮)  作者: はつい
第壱拾縁:貴方とこもれ陽の下に・・・
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第ⅡxC&Ⅱ話:顔と貌。

 征樹には最初から解っていた事があった。

それ故に気づけない。

父は自分とは違う人間で、父には父の世界があるという事を。

失念していたといってもいい。

そこは彼の子供らしさというか、父の事を深く考える事を避けていた、或いはしなかった、視野の狭さ、諦めの産物といえるかも知れない。

職場の中を見学して、今、征樹よりも少し離れた場所で同僚と話している静流をぼんやりと眺めながら、今回の事を考える。


(静流さんの職場でもあるんだよな・・・。)


 そこには征樹の知らない世界があって、社会人としての静流の顔がある。

それも父と同じ。

自分達といる時と仕事場にいる時の静流と違って当然なのだ。

違った顔があって然り。

だがしかし、どちらも同じ静流だ。

それも間違いない。


「違って当たり前か。」


 それがどうしたというのだろう。

征樹にとってそのどちらも嫌いではない。

そんな事を考えるなんてナンセンスだ。


「ねぇねぇ?」


「?」


 大人の仕事場だ、最初は無関係な自分が呼ばれたなどと気づく事が出来なかった。


「キミ、所長さんの息子さんてホント?」


 そこでようやく自分が呼ばれた事と征樹は気づく。

事務服姿の3人の女性。

一人は背の低い丸顔の女性で、目尻も下がり目で、どこから見ても温和そうな女性。

征樹的に表現するとふくよかでどれもこれも丸いのだが、ショートカットのせいで余計に丸く見える。

 もう一人は同じショートカットでも背が高くて細い。

ひょろっとしている。

同じく細い糸のような目で、髪型は先程の女性と違い、少々襟足が長い事くらいだろう。

いまいち表情が読み取れない。

 そして最後の一人は、眼鏡をかけた知的な女性。

髪は肩口より長く、やや俯きがちに征樹を見上げている。


「いきなり失礼よ?」


 ノリノリで聞いてくる二人を窘めてはいるが、瞳は興味津々堪らないといったのが見てとれる。


「はぁ、まぁ、そうですけど?」


 法律上も遺伝子上も間違いないので、やや複雑な感情になりつつ答える。


「似てないわね。」


 あまりにも聞き慣れた反応、逆に安心してしまう。

やはり、この場に対して緊張していたようだ。


「よく言われます。どうやら母親似みたいで。」


 両親のどちらも知る人間は、すべからくと言っていいほど言うので・・・特に鈴村はそれを強く主張するから、きっとそうなのだろう。

この反応もこれからよく言うフレーズになるんだろうかと、それはそれで面倒だなと思う。


「あぁ、なるほど。」 「ねぇねぇ!村迫さんと一緒に住んでるってホンド?」


 どうやら、丸顔のこの女性は興味があったり、気になったりすると聞かなければ気が済まないタイプらしい。

ちょっぴり杏奈に似てるカモと思いつつ。

ちなみに他の二人は、彼女の発言に額に手をあてたり、呆れたりしている。


「もうちょっと言い方どうにかならないのかしら、この子は。」


 その呆れももっともなのだが、一度杏奈に似てるカモと思ってしまうと邪険にしづらい。

何より、回りくどく聞かれるよりは、面倒くさがりな征樹にとって非常に楽でいい。


「構わないです、事実だし。」


 根も葉もない噂の類だったならば、憤りを感じ得ない話題ではあったが、事実となれば仕方がない。


「ね、ね、どうなのどうなの?」


 もうどうにも止まらないようだ。


「どうって?」


 一体、何を聞き出したいのだろう?


「村迫さんって、ほら、なんて言うか、エリートちっくじゃない?」


「そうねぇ、職場では出来るオンナだけれど、普段はどうなのかしらって思うのよね。」


「生活感とか、その、あんまり感じないから。」


 そこまで言われて、征樹はふと考える。

自分に対する静流。

確かに仕事場にいる時と全く同じという事は、今の征樹には言えない。

では、征樹が一番身近に感じる、きっと彼女達の言う"普段の静流"とはどんなのだろうか?


「僕と一緒にいる時の静流さんは・・・。」


「さんは?」


 三人が息を飲んで征樹の答えを待つ。

征樹が次に口を開くまで、そんな時間はかからなかった。


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