第C&Ⅸ十Ⅷ話:起点から、線路続くよ何処までも。
これで通産200話目ですか?
字数的に考えて換算すると、大体他の作者さんの100話弱って所ですね。
でも、通勤・通学で読むなら、こんなもんかと・・・
『今日はね、特に行こうと思っている目的地はないの。』
朝食の最中、いただきますの次の言葉はそれだった。
『ただ何箇所か回りたいから、付き合ってね?』
そうは言うが、そもそも征樹の一日は彼女に預けてあるので、是非も無い。
朝食の後片付けもそこそこに洗い物を水につけ、二人で家を出る。
今日の移動手段は、バスと電車だった。
「ねぇ、征樹くん?」
電車の座席で揺られていると、徐に静流が口を開く。
「?」
「お父さんの事、どう思ってる?」
「どうって?」
意外だった。
どちらにとっても。
どちらかというと、このテの話題は禁句のような。
いや、征樹自身はそう思ってもいないのだが、常にそんな雰囲気だった。
そんな一見禁句の様な事柄を静流が進んで聞いてきた事が。
「どんな風に思っているのかしらって・・・。」
征樹は考える。
今までの自分自身ならば、恐らく答える事すらも面倒で放棄していただろう。
もっとも、今までそんな事を聞いてくる人間すらいなかったのだが。
「どうとも。好きでもないし、嫌いでもないです。」
思春期、特に反抗期というモノが同居するこの年代にしては、マシな方と言っても差し支えない返答だ。
「何の興味も関心もないって?」
無関心というのは、実害がないようで実際はタチが悪い。
それはいないも同然。
「それは向こうも同じなんじゃないかと・・・。」
それがよく理解出来てしまうくらいには、幼い時分の征樹は賢かった。
無論、それが良い事か、褒められる事かと問われれば・・・。
「でも、やっぱり僕にとっては父で、母と出会って産まれて来られたってくらいには感謝して・・・るのかも知れない・・・かな。」
語尾に近づくにつれ、どんどんと懐疑的になってゆく。
嫌いではない。
それは断言出来る。
だが、好きと言えるだけの材料に乏しいというのが本音だった。
「そう。そうね・・・互いに交流する時間が無ければ、解るものも解らないし、解ろうとする気持ちも起きてこないものよね。」
そこまでの会話で、そう察してくれる人間だって征樹にとっては少ない。
だから、それが征樹には少し嬉しくてこそばゆい。
一番大事なのは、解ろうとする意思。
「そうですね・・・。」
「じゃあ、私のコトは?」
勢い。
静流にとっては、この時点で禁句に敢えて踏み込んて聞いたのだから、恐いものはない。
(・・・うぅ・・・前言撤回・・・やっぱり聞かなきゃ良かった・・・。)
しかし、言ってしまったのだからもう引っ込めようもない。
諸刃の剣ヨロシク、自分もちょっぴり傷つきつつも、静流は問いかけ、征樹の答えを待つ。
待つしかない。
「・・・・・・感謝してます。」
変化の兆しも静流からだった。
静流が来る以前から、琴音達は征樹の身近にいたし、奏(歌南)や杏奈に至ってはそれよりもずっと前にいた。
しかも、征樹に対してひとかどの想いを以ってしてだ。
しかし、それに気づく、正確には気づかされるような事になったのは、皆、静流の存在を起点として。
その中には、征樹にとって面倒極まりない事も確かに含まれていたはずなのだが、それを含めてこその人間関係。
いつしか上手く折り合いがつけられつつある。
それを踏まえると・・・。
「静流さんは、僕にとっての"初めての人"だから。」
征樹なりに簡潔にまとめるとそんなカンジ。
だが・・・。
「静流さん?」
言葉尻だけが強調されて届く静流の耳には、それが更にエコーで響き渡り、そしてその規模は嵐のように・・・。
征樹の意図したのとは少々違うが、"初めて"の事が多過ぎるのは静流も同じだ。
彼女にとって、征樹の言葉を解釈する為の心当たりもまた多過ぎる。
キスやら抱擁やら同衾やら、それはもう須らく、話題に事欠く事がないくらいに。
無論、征樹の言いたい事とは大分かけ離れているという事は言うまでもない。
その全てを走馬灯のように駆け巡らせながら、静流は口をパクパクと池の鯉のようにさせ、半ば昇天。
そして通常運転に戻るまで多大な時間を要するのだった。




