第ⅡxⅩ話:期待さえしなければ傷つかないから?
「ただいま。」
恐る恐るそう呟きながら帰宅する征樹。
冷静に考えれば、自分の家に帰るのに何故こんなにビクビクしなければならないという疑問に辿り着くのだが、今の彼にはそんな余裕は無かった。
「・・・・・・やっぱ、帰ちゃったか。」
反応なく、家の中にも人の気配が感じられない。
部屋に誰もいないのを確認して、ようやく少しほっとした。
確かに心の何処かに落胆がないわけではないが、その根本になるのは、昔ちょっとだけ大人に期待していた頃に近いものだった。
「まァ、僕みたいな可愛くないガキの相手なんか誰もしたくないよな。弁護士って言ってたしね。」
自嘲的な征樹。
だが、一通り心の整理がつくと、今度はお腹が空腹を訴え始めた。
そういえば、朝食も昼食ですら食べていない事を思い出す。
流石に育ち盛りの身体には辛い。
何か作っても良かったのだが、既にそんな気にはなれなかった。
結局、買い置きのパンを齧りながら、鞄に入っていた教科書とノートを取り出す。
昨日のどたばたから現在にかけて、勉強の"べ"の字すらしていない。
今日もなんだかんだで、学校をサボってしまった。
それはどうかと自分で思ったのである。
先程まで、義務教育云々と思ったのは棚上げにして。
せめて昨日、今日の復習になるであろう範囲の部分でもやっておこうと。
一応、心の中で先生に謝っておくところは征樹の律儀さだ。
だが、静流の事に関して多少の整理がついた事で始めた復習も、今度は在家の事が気になって程なく進まなくなっていく。
自分が想像した通りだったら・・・。
(だったら?どうするつもりんなんだ?僕は?)
結局、何が出来るワケでもない・・・。
「バカか、僕は。」
本当にガキの自分に苛立つ。
だから自分の周りに人がいないんだと。
誰も。
『アタシ、何でキミの友人なのかわかんなくなるよ、全く・・・。』
杏奈の落胆したような言葉。
「僕だって、わかんないよ。」
何故、杏奈は自分に声をかけるのだろう?
初めて声をかけてきた時。
ロングの綺麗な髪を一つに束ねながら笑い、少し強引に・・・いや、無理矢理に会話を成立させようとした彼女。
一体、全体、何がきっかけだったんだろう?
「話しかけたって、何の得にもならないのに・・・。」
そう呟いた後、本当に何かもが嫌になって思考を止めると、無言で作業に入った。
これ以上、何を考えたって結論なんて出るわけがないから。
そのまま、征樹は復習に小一時間以上没頭し続けた。




