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貴方と背中を合わせる理由。(仮)  作者: はつい
第拾縁:ほら、そこに愛はある。
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第C&Ⅸ十Ⅵ話:また、また、明日。

これで、今章最後になります。

 つまらない。

一言で表すとつまらない。

全く以って端的なまとめ方ではあるが、今の杏奈の気持ちを表すにはこれが一番しっくり来る。

別に征樹と過ごす一日がつまらないというわけではない。

決してない。


『は~い、こっちが征樹の分。』


 ちょうど半分に切り分けたプリクラ。これを征樹に渡すまではつまらないなどとは微塵も思わなかった。

ゲーセンを出て、近くのファーストフードに入り、軽く小腹を満たしつつ、先程撮ったプリクラのシートを眺めた辺りから、杏奈の感情はより一層複雑になっていった。

乙女心となんとやら。

しかし、ふと征樹を見やると、彼も杏奈と同じようにそれを感慨深下に眺めていた。


『そういえば、本当に。母さんが死んで以来、ほとんど撮った事なかった・・・。』


 何が?などと聞かなくても解る。

写真の事だ。

杏奈はその言葉で満足する事にした・・・。

・・・はずだっただろう、今までの杏奈なら。

つまないと思ってしまった。

嫌だと思ってしまった。

それは次第に焦りのようなものに変わってゆく。

このまま終わり。

一日が終わる。

この店を出て、家まで送ってもらい・・・それが、その全てがつまらないのだ。


「ねぇ、征樹?」


「うん?」


 手を後ろ手に組んだ杏奈の姿を夕日が落とし込む。

その逆光で、征樹には杏奈の表情が解らない。


「もうちょいで一日が終わるね。」


「・・・そうだな。」


 征樹は少しずつ変わった。

いろんなモノが彼の中に詰まりだしたから。

空っぽになってしまった彼の心の中に・・・影と実体が一つになるような・・・。


「恋人ごっこももうお終いだね。」


「恋人ごっこ?学校に行くのが?」


「そうだよ?場所は関係ないの。征樹といられるなら。」


 そういうものかなのかと、一人首を傾げる征樹。

しかし、杏奈が言うのだから、杏奈にとっては確実にそうなのだろう。


「アタシの為の時間だもん。」


「また何処かへ行けるぞ?」


 征樹は学校で杏奈が言っていたように、月日の経過が原因で起きる変化のソレについて言ったつもりだったのが、それは杏奈の意図するところとは違う。

それを含めて杏奈は終わるんだなと、心の中であぁと溜め息をつく。

或いは深呼吸を。


「征樹・・・アタシね・・・。」


 終わるのなら、せめて盛大に・・・目の前の陽光に照らされた顔に向かって、彼をまっすぐに見つめて。


「征樹のコト、大好きだったよ。」


「"だった"?」


 過去形。


「うん。だった。それでね、きっとアタシはもっと征樹のコトを好きになって独り占めしたくなる。」


 独占と束縛。


「でも、征樹とアタシは嫌でも離れ離れになったり、違う時間を過ごしたり・・・あーもー、とにかく!色々あるから!アタシも変わる!」


「は?」


「征樹が変わったみたいにアタシも変わるのっ!」


 決意と成長。


「もっと美人になって、外も中も成長して、征樹を驚かせてヤル!イイオンナになったって言わせてやる!」


 変わってゆく征樹の速度に負けないように、追いつけるように。

征樹の横を歩かない事には見てもらえない。

その位置には何が何でもいてやる。

居座ってやると。


「なんだよ、それ、宣戦布告?」


 言われた本人は滅茶苦茶だとしか言えない。

だが・・・。


「イイオンナになった杏奈っていうのも、興味はあるな。」


「でしょー?」


 杏奈はぴょんっと飛び跳ねて征樹を抱きしめる。


「の、前にー。まだ今日は終わってないよネ?」


「あぁ。」


 つまりはまだ"ごっこ"が出来る。

何処かで聞いたようなセリフではあったが、征樹自身も否は言わない。


「にひひ~っ。」


 言質はとったと言わんばかりに満面、それこそ征樹が引きそうになる笑みをすると、征樹の唇に自分の唇を重ねる。

天下の往来?

舐めんなよ、こちとらイマドキの若者だっ。

心の中で中指を立てるぐらいの勢い、気構え。

そして、時間をかけて意外と柔らかく弾力のある征樹の唇を堪能した後、ゆっくりと離す。

少々、名残惜しくはあるが。


「オマエなぁ・・・。」


「はいっ!予約(・・)完了、恋人ごっこしゅーりょー。」


 呆れたような、困ったような、多分きっと照れているだろう征樹の反論、一切その他の苦情は受け付けないとばかりに彼の言葉を杏奈は遮る。

ただ、征樹のそんな表情を見られただろか、つまんないと思っていた先程とうって変わって、杏奈としては気分がいい。


「今日はありがと。それじゃ・・・またね。」


「あぁ、また。」


 別に今すぐに離れ離れになるような何かがあるわけじゃない。

まだまだ一緒にいられる。

そのはずだ。


(だって、アタシ達、幼馴染でもあるんだもんね。今は(・・)


 今はまだその称号に甘えたい。

そう甘えなのだ。

征樹はそんな杏奈の甘えを許してくれている。

周りには理解されにくいかも知れない。

でも、これも征樹に起こった一つの変化。

杏奈はにんまりと笑って、そして征樹は微笑んで・・・今日という日は終わってゆく。


・・・また明日。

次が最終章になります。

お暇でしたら、もう少しのお付き合いを・・・。

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