第C&Ⅸ十Ⅴ話:世界に一つだけの君の今を。
人の言動にはすべからく意味がある。
たとえ意味のない動作だったとしても、そこには予備動作が存在する。
突然放たれた言葉にも、本人の中には前提となるきっかけがある。
では、目の前のこの飽きる事なく観察できる幼馴染の言動の真意はどこにあるのだろう?
「何も考えてないの?」
そう問う征樹に対して、『うん。』ときっぱり言い放つ少女の。
「あ!征樹!征樹!ゲーセン、ゲーセン!」
結局、なんの目的もなく学校を出て歩き出した二人。
「僕はゲームはやらないんだけど?」
「いーから、いーから!」
ぐぃと自分の腕を引っ張る杏奈は、完全に問答無用だ。
普段だったら、逆に征樹の方が問答無用にスルーするのだが、律儀な彼は今日という日の"ルール"を守ろうとする。
一応、反論だけするのも彼らしい。
結果としてはズルズルと引きずられてゲームセンターの中へ入り、その一角へと杏奈に促される。
(うるさい・・・。)
征樹にはこの大音量になれる事が出来ないだろうとすぐさま結論を下す。
パチンコ屋の前を通る時もそうだった。
「はいは~い、ココに入って~♪」
適応出来ないまま、杏奈が放り込まれたのは、"プリクラ機"だ。
「まぁまぁ、楽にして楽にして。」
「あのなぁ・・・。」
楽にしろと言われても、のっけからこの環境に慣れていないのだ、それは無理難題というものである。
「いいじゃん。アタシ、征樹との思い出たーくさんっ、欲しいんだもん。」
征樹を見る事なく、鼻歌混じりで100円硬貨を数枚投入し、そして再び立ち尽くしたままの征樹の横に戻ってくる。
「はいはい、んじゃま、軽くポーズしてよ。あ、腕は組んでネ。」
呆れている征樹にあれこれ注文しながら、杏奈は肩を寄せる。
フレームに入ろうとする杏奈が少し背伸びをするのを横目で見た後、征樹は一つの溜め息を大きくついてから、更に深呼吸をして・・・。
「ほら、もっとこっちぃ~。」
仕方なく、本当に仕方なく杏奈と背の高さを合わせるようにして、彼女の肩を引き寄せる。
甚だ不本意だったが、征樹的には杏奈にあれこれ指図される事に関してで、その内容に関してではない。
そして、これが杏奈の望みで、デートプランならば、叶えるというルール。
そう言い聞かせながら、機械のカウントダウンの合図を聞く。
「あぁ、もうっ、もうちょっと笑顔で!ほら、スマイル、スマイル。」
「注文多い・・・。」
早く終われとばかりに撮影など軽く流すつもりでいたので、杏奈の注文も確かに一理ある。
渋々カメラをしっかりと見て、モニターの先に写る自分と杏奈を確認する。
(まるで恋人同士・・・・・・に見えるのか?コレ?)
シャッター音
カウントダウン
もう一度シャッター音
で、征樹の苦行(?)は終わる。
「んじゃ、落書きタイムで日付けとか入れなくっちゃね。」
「撮ったモノにわざわざ落書きをするってのも、今ひとつ理解出来ないんだよな。」
「デコレーションだと思って。世界に1シートしかない貴重品なんだから。」
オオゲサな。
第一、女子は手帳に大量に貼ってあったり、持っていたりするじゃないかと反論したい気分だったが、そういえばと考えを改める。
「最近、写真とかを撮るのも減ったな・・・。」
「デショー?」
「あ、海に行った時に撮れば良かった。」
「う~ん・・・水着姿が未来永劫残るのはちょっぴりアレだけど・・・うん、そうだよね。うん、また来年撮ろう!そしたら、また来年が待ち遠しくなるもんネ!」
「来年の話とか、気の長い・・・。」
「いーのっ!ほら、プリ出来たら半分切って征樹にあげるからね?大事にするんだゾー。」
そう言って、ふっふっふっと偉そうに笑う杏奈に征樹は今日、何度目かの苦笑をした。