第C&Ⅸ十Ⅲ話:君の横顔と放課後の夏。
「う~んっ、見慣れた眺めっ!」
(そりゃそうだろう・・・。)
目の前で背伸びをしている少女をぼんやり眺めながら、心の中で征樹は毒づく。
何故征樹がこんなに毒づくかといえば、現在彼等がいる場所のせいである。
征樹がいるのは学校、それも普段通っている学校の自分の教室の中だ。
見慣れた眺めなのは当然。
そして、背伸びをしているのは杏奈である。
「何でよりによって学校なんだ?」
夏のデート企画(?)は、各人の行き先はあらかじめ報告済み。
つまり、以前に"学校"という場所は鈴村と行った事も指定いるはずなのである。
なのに何故?
第一に行き先が被らない為の措置の一つではなかっただろうか?
(とりあえず、違う学校とはいえ行き先が被るとテンションが多少下がるのはわかったな。)
とはいえ、行く相手が違うのならば、それは全く違ったものであると理屈では理解しているので、特に気にはならない。
「あ~、なんか不満そうなカオー。」
ぐるりと身を翻した杏奈は頬を膨らます。
「これでも色々といーっぱい考えたんだからね!」
嘘ではない。
前日、いやそれ以上前から。
もっと遡って、この企画が決まってから延々と考えていたのだ。
勿論、前日なんてテンパりまくって現在、少々寝不足気味でもある。
「考えた結果がコレか・・・。」
別に呆れているわけじゃないが、杏奈の思考回路については疑問を持たざるを得ない。
「ほら、なんか色々あったなーって考えたらさ、なんとなく・・・学校?」
やはり甚だ疑問だった。
しかも、何故か本人も疑問系。
「あ、納得してないなぁ?」
「納得出来る方がどうかと思うけど・・・。」
つかつかと窓から征樹に歩み寄り、細い人差し指で征樹を指す。
「色々あったのは本当でしょ?」
「まぁ、ね。」
人を指差すなとは、とりあえず突っ込まないでおくことにした。
「ねぇ、征樹?」
杏奈は、ふぃと征樹から視線を逸らすと、ひょいっと机の上に座り胡坐をかく。
「行儀悪いぞ。」 「いーの。」
一応、そこは注意するのが征樹らしい。
「パンツ見えるぞ。」
今度は切り口を変えてみる。
「今更でしょ。」
相手も切り口を変えてきた。
今更も何も、そんな何度も杏奈のパンツを見た覚えは征樹にはなかったのだが、それが彼女の裸だという事に気づいて、否応なしに口をつぐむ。
征樹が口をつぐんだのを確認すると、つま先の上に置いていた手を杏奈はきゅっと握る。
「次は・・・私達が受験生だね。」
「まだ時間はあるけれど、そうだな。」
奏の受験が終わり、卒業すれば今度は征樹達が最上級生になり、杏奈の述べたような状況になる。
「結局、征樹は進路どうするのかな?」
そういえば、以前あった進路の話は棚上げ状態になったままだ。
「解らない・・・まだ決めかねてる。」
逆言えば、その候補以外は全くの白紙状態ともいえる。
「離れ離れになっちゃうんだよね・・・アタシ達。」
それはとても切なそうに、寂しそうな声で・・・。
「・・・・・・離れ離れにはならないだろ。」
征樹は至って冷静だった。
「だって、アタシも征樹も別々の学校に行くんだよ?・・・先輩だって・・・。」
奏の事はとってつけたような感はあるが、杏奈は本気で寂しがっているように征樹には見えた。
「それでも携帯とか連絡を取る手段はあるだろう?互いの家だって知ってるんだし。」
「そうじゃなくて!」
一際大きな声音で声を荒げる杏奈。
かぶりを振って、自分を見た杏奈の瞳は涙で潤んでいた。