第C&Ⅸ十Ⅰ話:肩を並べて行く先に。
自分は押しの強い女性に弱いのだろうか?
それも壊滅的に。
最近ようやくそういう傾向らしきモノがあるのでは?と征樹は思う。
言わずもがなな杏奈を筆頭に、征樹の周りにはそんな女性ばかりだ。
一見物腰が柔らかいだろう奏や琴音も結構勢い強く征樹に対する事が多々ある。
「どうしたのかしら?」
「あ、いや、少し考え事を。」
デート中に考え事、しかも他の女性の事を考えるなどというのは、非常に失礼極まりないと解っていた征樹は、すぐさま思考を打ち切る。
「ん~、そんなに行ってみたい?」
「は?」
「ア・レ・♪」
何の事を言っているのだろうかと、征樹は琴音の促す自分の視線の先を見る。
「・・・ありませんし、行きませんっ。」
色とりどりのきらびやかなレースやお花の群れがそこにはあった。
所謂、ランジェリーショップというヤツだ。
「あら、そうなの?考え事しながら見てたから、てっきり~。」
当然、征樹は見ていたわけではなく、考え事をしている最中にたまたま顔が向いていた方向だった。
ただそれだけである。
「大体、なんで・・・。」
自分が行く必要が何処にあるんだ馬鹿馬鹿しい。
「ほらぁ、思春期だし~?」
何故だが疑問系。
「聞かないでください。」
「難しいお年頃なのねぇ~。」
何やら先程から一言で全てを片付けられている気もしなくもない。
「でも、そうよね。どちらかというと外見より中身が重要だのもね~。」
「いや・・・確かに中身が重要だけど、いやそうじゃなくて・・・。」
もう何を言ってもそういう方向にしか話題が流れていかないような気がして、征樹は脱力する。
それが唯一許されたリアクションでもあり・・・。
「そうそう、さっきね、ご姉弟ですか?って聞かれちゃったの~。」
この話題をさっさと打ち切りたかった征樹の心を読んでか、再び征樹の腕を取り歩き出す琴音。
「うん、で?」
話題が変わった事で少々気が楽にはなった征樹は、会話の続きを促す。
「可愛いでしょ~って、お姉ちゃん自慢しちゃった♪」
満面の笑みの琴音は、今にもVサインでもしそうだ。
(・・・それだけ・・・かな?)
だが、そんな思いとは裏腹にこの話題は広がる事もなく、特にオチもなかったようである。
征樹にしてみれば、男の自分を可愛いと言われるのは少々、微妙というか、あまり手放しで喜べるものではない。
「征樹ちゃんを恋人にするには、ちょ~っと無理があるもの。お姉ちゃん、もうオバさんだし・・・。」
落胆した声で琴音は呟く。
そこまで落ち込む必要がある程に年を取っているようには見えない。
勿論、年齢もだ。
どちらかといえば、年齢の割りには若々しい。
だが、それを否定する事が正しい反応なのか征樹は言葉に出しあぐねていた。
ふと、自分とすれ違っていく人々を眺めると、今の自分達と同じように買い物している人々にも様々な者がいる。
「かと言って・・・。」
「?」
「"息子"とは言えないものね・・・征樹ちゃんのお母様は一人だけ。冗談でも言えない。」
すれ違っていく人々のなかには、親子連れの人もいる。
その姿の行く先を目で追う・・・。
「ん~、あとはお夕飯の材料を買わないと。」
どうやら琴音は今日一日をフルに使う気らしい。
「じゃ、デートの続き、続き~♪」
「琴音さん・・・。」
誰が悪いというわけではないが、征樹は何となく居た堪れない気持ちになってくる。
彼女の言葉、想いに対し、すぐに言葉にして反応出来ない自分が情けなく思いながら。
そんな征樹の気持ちを察したのか、腕を組んでくる力が強くなった気がした。
「"さん"じゃなくて、お姉ちゃん。でしょ?」
そう述べる琴音に征樹は力無く微笑むしか出来なかった。