第C&Ⅷ十Ⅸ話:Late-blossomed
まとめてみる事にしよう。
いや、整理して考えてみよう。
初恋にも近い、まるで運命の出会い。
自分の人生を変えた恩人のような人間に子供がいた。
恩人はとうに亡くなり、その恩はついぞ返せずじまい。
しかし、その子供は恩人の面影を宿した愛らしい少年に育ち、ようやく恩を返せそうな機会が巡ってきた。
自分と恩人とは別の一個の人間と見ろ、その少年は自分にそう言う。
そこだ。
では、その少年は自分にとって何になるのか?
正直な話、この葵 征樹という人間は恩人の息子という点を除いてみても、充分に愛らしい顔立ち(自分から見れば)なのだ。
その全部の関連付けを切り離して考えるとなると・・・。
なるべくそのように考えたとしても、初恋の人に似た容姿端麗、品行方正な少年。
トドメは男性。
男のような格好をしなくてもよい、初恋の人とは性別の違う男性。
かつてキルシェもそう述べたように・・・。
「あの、鈴村さん?」
この整理された理論(恐らく暴論)を瞬時に導いたかは定かではなったが、その結果、或いは現実は背中から倒れ込んだ征樹に馬乗りになっている。
その手は征樹の頬に添えられたままでかたまる二人。
「・・・だとしたら。」
「?」
征樹の頬を擦りながら呟く。
「だとしたら、私は貴方の"何になれる"でしょうか?」
征樹の母、清音という存在を外したら、一体?
征樹の周囲にいる女性陣と違って、どんな居場所、立ち位置があるというのだろう?
「・・・・・・変なの。」
一瞬だけ鈴村の言葉にきょとんとした征樹は、自分の頬に触れている鈴村の手を取る。
手のひらとひらを合わせ、指と指を絡ませ・・・。
「鈴村さんは鈴村さんだよ?」
その言葉に今度は鈴村が意表をつかれたような顔をする。
葵 征樹は葵 征樹。
ならば鈴村 蘭も鈴村 蘭。
人間関係の出だしなど何時も誰もがそのようなものではないか?
そこから先は互い次第。
征樹にしてみれば、そう認識してくれる人を自分がずっと求めたいたから。
「あぁ・・・そうですね・・・確かに変でしたね。」
クスリと征樹に微笑みを返し、ふと握られた手を見やる。
しっかりと結ばれた手。
互いに差し出しあって、そのうえ互いに握り返さなければこのように結ばれない手。
まるで人と人の絆のように。
「では、私は母君に負けないくらい貴方を大切に致しましょう。」
まるでプロポーズか何かと勘違いしそうな男前の台詞だったが、それもセーラー服でなければの話だ。
そんな事を意にも介さずに、鈴村は自分の手が握られている征樹の手の甲に口づけをする。
今度は誓いのキスのように。
だが、これもやはり服装がアレでなければ・・・と。
「あ、別に慌てて隠れる必要なかったですね。」
「?」
「だって僕達、ここの制服着てるし、何とでも誤魔化せたんじゃ・・・それかさっさと謝って逃げちゃうとか。」
制服に着目して何気なく思いついた事を征樹は言ったのだが・・・。
「そ、それは征樹様だけですっ!わ、私なんかど、どうせもう女子高生なんて無理です!通らないですっ!」
それは致命的かつ精神的な大ダメージを鈴村相手に叩き出していた。
「そうなの?」
以前、杏奈達が着ていたのを思い出してはみたが、琴音は(成育した分)ともかく、静流も意外と似合っていたように思えた。
それは鈴村も同じように思える。
「そうなんですっ。」
「似合っているのと、そう見えるってのはまた別なのか・・・。」
それが違和感に繋がるという事に今更気づきつつ。
「もうっ、征樹様いぢわるですっ。」
「・・・なんか、鈴村さん可愛い・・・。」
「知りません!」
甚だ不謹慎というか、デリカシーに欠けるというか、結局相も変わらず征樹は征樹だったのだというお話。