第C&Ⅷ十Ⅷ話:思考と思考と・・・結局、嗜好?
規則性のある靴音が響く。
その足音は止まる事も、足踏みする事もなく続く。
それは、目的地が決まっているからに他ならない。
やがて・・・。
ガラガラと教室の戸が開き、そこから一歩、二歩。
二歩分の靴音が鳴る。
「・・・。」
その人物が何を求めて、そこに来たのかというと・・・。
(まさか、キルシェの机の下に隠れた時の経験が役立つとは思わなかった・・・。)
どう考えても不法侵入の征樹と鈴村の気配を感じ、確認しに来たに違いない。
二人は現在、とある場所、勿論二人を探しに来たであろう人物に見つからない所に隠れているのだが・・・。
(危機一髪・・・だったのかな?)
未だ教室内に自分達以外の気配を感じている段階では安堵は出来ない。
だが・・・征樹は少し笑っていた。
現在の自分達の状況にだ。
夏休み中の学校の中の校舎に侵入して、尚且つ見つかりそうになって隠れている。
(こんな経験、鈴村さんと出会わなかったら味わえなかった・・・。)
経験があって後、人と出会うのか。
それとも人と出会ったからこそ、経験が発生するのか。
そんな鶏と卵論を脳裏に浮かべながら・・・。
これまでの経験や出会いの数々を思い出し、そしてまた微笑む。
その全ての出会いを噛み締めながら。
(意外と征樹様、筋肉質・・・。)
一方、鈴村はそんな事を考えていたりした。
華奢なように見えて、予想外に締まっている征樹の身体つき。
それを意識してしまって、自分の身体が熱くなってくる。
征樹は自身を母である清音の身代わりのように評したが・・・ところがどっこい、紛れも無く男として認識しは始めている。
(・・・不謹慎・・・本当になんと不謹慎な・・・。)
そうは思っても、それは脳ミソの中でだけで、その脳ミソすらも徐々に熱に侵されそうになってゆく。
(征樹様・・・。)
「・・・もっと・・・。」
微かな吐息だけの声で、もう鈴村の身体は征樹の熱を更に求めてすり寄っていくのを止められなかった。
(?)
当の征樹はそんな鈴村の動きに何の意図があるのか・・・実際には本能的なモノなので無きが如くなのだが、首を傾げつつ、鈴村と触れ合う面積を増やす。
(・・・あぁ、痺れてる・・・心臓が・・・。)
身体の奥からの熱を排出する事も出来ずに痺れるような間隔。
それよりも早鐘を打つ鼓動が征樹に聞こえやしないだろうかと・・・しかし・・・。
(なにも・・・考えたく・・・ない・・・。)
この段階での思考の放棄というのは、理性の放棄に近しい。
「・・・鈴村さん?行ったみたいですよ?鈴村さん?」
再び扉が動く大きな音がして、いつの間にか去って行く靴音も聞こえなくなっていた。
「イヤです。」
「え?あ、あぶなっ!」
ガタンと大きな音がして、教室の一角、掃除用具入れのロッカーから二人は転がり出る。
文字通り倒れ込むように背から投げ出された形の征樹。
「ッ・・・。」
何とか頭だけは打たずに済んだのだが、少々強かに背中を打ってしまった。
それでも鈴村が背を打つような事にならなくて良かったと征樹はほっとしたのだが・・・。
「鈴村さん、大丈夫?」
流石にこの体勢から、大人の女性一人を支えきれる程の力は無かった。
非力というのではなく、身長差という意味で。
「征樹様・・・。」
「鈴村・・・さん?」
下敷きになるような形で倒れ込んだ征樹の上で、鈴村がゆらりと起き上がると、その手を征樹に・・・。