第C&Ⅷ十Ⅶ話:ナイモノをアルモノにするには。
予約投稿したつもりだったYO!
「もういいんだよ・・・。」
そう言って自分に近づいてくる征樹を見ていると強烈なデジャ・ビュが鈴村を襲う。
伸ばされる手を払いのける事もせず、とても自然に彼女は征樹に抱きしめられていた。
「もういないんだ・・・死んじゃったんだよ・・・。」
自分を抱きしめたその口から紡がれた言葉に身体を強張らせる。
それと同時に涙も。
現実の辛さと、言葉の重みに。
同時に今自分が感じている想いをもう一度征樹の口から言わせてしまった事に。
鈴村とて、そんな事は解りきっているのだ。
「僕は母さんの代わりじゃないし、代わりにはなれないよ・・・。」
更なる大きな衝撃。
征樹がそんな事を言うとは思ってみもみなかった。
だが、心の中で彼の母親の面影を彼の中にずっと追いかけていたのも確かで。
一方で征樹としては、ある意味慣れたモノだった。
母が亡くなった事で、祖父母はそういったモノを自分に求めていた節があったのを思い出す。
だから、彼自身それに反発する事はしなかった。
いや、出来なかった。
父にもそういったものがあったかも知れないと今になっては思う。
どちらにしろ、征樹にはそれが重荷である事には変わりない。
当然、自分が母親の代わりになど出来ないからだ。
「僕だって、母さんにしてあげたくて、でも出来ない事なんて沢山あったよ?」
それどころか、一時期は盛大に自分を責めた時もあった。
もしかしたら鈴村にはその時間すらなかったのではないだろうかと征樹は考える。
「僕は母さんの代わりにはなってあげられないから・・・だから・・・。」
"だから自分はダメなのだろうか?"
そう思った時期も自分にはあった。
既に遠い昔の事のように征樹にとって感じられる事に、彼自身驚きつつも。
「だから、その分は自分に向けてあげて。きっと貴女が幸せにある事を母さんは望んでいたと思う・・・きっと喜ぶと思うから。」
征樹にとっても自分がまさかこんな事を口にするとは思ってもみなかったが。
「ね?」
念を押す征樹の微笑み。
どう答えれば?
鈴村がそう考えたのも一瞬の事、何故なら応えなければいけない"のは明白だったから。
「私は・・・確かに、征樹様の母君に救われました。そのご恩は一向に返せないままです。でも、その分を貴方に返せる、返していこうと誓いました。」
時にそれが行き過ぎて、瀬戸やキルシェに窘められた事も多々あった。
けれど・・・。
「でも、今は解りますよ。」
自分を抱きしめていた征樹の身体を引き離すと、流れる涙を拭う事もせず、今度は鈴村が征樹を胸に抱く。
「私は征樹様に幸せになって欲しい。母君の分も、その何倍、何十倍も。貴方の母君が私の幸せを願っているというのなら、それ以上に息子である貴方の幸せを願わないはずがありません。」
その手助けを。
自分の人生をかけて。
今は征樹がそれ程までに愛しい。
母親になるという事は、そういった気持ちが溢れ出るという事なのだろうと彼女なりに解釈しながら。
「・・・そうかな?」
自信なく、それすらも疑問に思ってしまう目の前の少年を愛しく想えないはずがない。
「えぇ、断言できますよ。」
「そう・・・。」
「大丈夫です、私がいますから。」
「でもっ・・・。」
征樹は自分の主張が、思ったようにうまく伝わらなかったのかと思う。
「解っています。確かに私の人生は私自身のものです。貴方の母君も、生きていれば同じ事を仰ったと思います。」
それも鈴村には断言出来た。
「なら・・・。」
「それでも、貴方の力になりたいのです。それとこれとはまた別なのですよ。」
征樹の幸せが自分の幸せなのだとは、恥ずかし過ぎて言えないが。
「いいのかな・・・。」
鈴村が征樹の述べた事を理解したうえでそう断言するなら、それ以上は征樹には何も言えない。
「えぇ。だって私は・・・。」 「しっ!」
言葉を続けようとする鈴村を遮って・・・。
「・・・・・・誰か来る。」