第C&Ⅷ十Ⅵ話:カノジョのヤボウ?
「・・・きさま?」
微かに声が聞こえて、征樹はゆっくりと瞼を開く。
「征樹様?着きましたよ?」
「・・・あ・・・れ?」
どうやら車に揺られている間に眠ってしまったらしい。
運転中、一切会話もせずにいれば退屈で眠ってしまっても無理からぬ事である。
「大丈夫ですか?」
気遣う鈴村の言葉に申し訳なくなった征樹は謝罪の言葉を口に出してみようとしたのだが・・・。
「ゆっくりとお休みになられたのなら良かったです。」
こう言われては、二の句が継げない。
(それにしても・・・よく寝られたな。)
日頃の眠りが浅い征樹にしては、夢も視ずに深く眠れる事は今までは少なかった。
しかも、ただでさえ夢見が悪い方だというのに。
「そういえば着いたって何処に?」
未だ目的は知らされてはいなかった。
「お降りになられれば解りますよ。」
そう微笑む鈴村の言葉を受けて、車から降りてはみるのだが・・・。
「・・・何処?」
どれくらいの時間寝ていたのは解らないが、車で一眠りするくらい移動したのだから、見知らぬ風景が征樹を迎えるのは当然で・・・適度に続く並木道に・・・。
「学校?」
何処かの通学路のような光景。
これ以上は征樹にも解らない。
説明を求めて、同じように車から降りた鈴村を見つめる。
「はい、学校です。私と母君が通っていた学校ですよ。」
その意図が征樹には理解出来なかった。
予想通りの母が関係する場所ではあったが。
「私がここに通っている時に卒業生であられた母君と出会ったのです。」
それは鈴村にとっては未だ鮮明に残る記憶。
『何をしているのかしら?』
出会いの、その最初の言葉もしっかりと覚えている。
「色々とあったのですが・・・とりあえず参りましょう。」
思い出に浸ろうとするも、すぐさま現実に立ち返り征樹を促してから歩き出す。
「あ、あの、中へ?それは少しマズいんじゃ・・・。」
いくら夏休み期間中とはいえ、許可なく無断で立ち入るというのはどうだろうかと。
ただでさえ、最近はこういった事に厳しいはずだ。
「大丈夫です。本日は何処の部活動も、生徒・教師もいないのは確認済みですから。」
どうやって確認したというのだろう?
疑問に思う征樹だったが、鈴村がそう言うのだからきっと本当にそうなのであろう。
そういう所はきちんとしていて、征樹にも信用が出来る。
しかし・・・。
「そういう問題じゃないんじゃ・・・。」
いくら人がいないからとて、無断で中に入るという事には変わりない。
それとこれとはまた別の話なのだ。
「・・・・・・なるほど。」
征樹の発言を受けて、鈴村も少し考える素振りを見せた後、おもむろに車のトランクルームを開く。
征樹の言い分は確かに正論だが、鈴村的にはそういった問題も込みで解決済みだったので、気にすらしていなかった。
しかし、これは彼女にとっても好都合である。
「これをどうぞ。」
「?」
鈴村に渡されたモノを征樹は訝しげに受け取り、そして広げ・・・。
「この学校の制服です。」
「はぁ・・・。」
(一体、何処から調達してきたんだろ・・・。)
「あぁ、ご心配なく。ちゃんと私の分も用意してありますので。」
「え、あ、はぁ・・・。」
征樹とお揃いの学校の"制服"
鈴村、野望達成の瞬間。
(根本的な解決になってない気がするんだけど・・・というより、これって鈴村さんの私物って事なんだろうか?)
新たな疑問と共に突っ込みドコロ満載である。
『でなければ、痴女だな。』
ふと、先程も思い出していたキルシェとの会話の続きが征樹の脳内で再生され、それを必死に振り払う。
「では、車の中でお着替えを。」
ずぃっと力強く勧める鈴村の勢いを退ける事は出来ず、渋々車の中へと戻る征樹であった。