第C&Ⅷ十Ⅱ話:一緒の仕方。
「そんなに子供みたくはしゃぐと転ぶぞ。」
近くを闊歩している子供と変わらない、それ以上のハイテンションで駆け回るニアは完全にアンバランスだ。
「ダイジョぶっ。」
ビタンと派手な音を立てて転んだニアに、一様に何が大丈夫かと思ったのは言うまでもない。
しかし、普通はよろめくか、転んでも手をつくかだとかをするようなものなのだが・・・。
(鼻、打ったよね、アレは。)
冷静に分析する征樹も酷いものである。
「ニア、大丈夫?」
「痛痛デス。」
それはそうだろう。
驚きもせず、自分の鼻を押さえるニアに征樹は手を差し伸べる。
「ほら、掴まって。」
ともかく鼻血などの目だった怪我がないようなので良かったとほっとする。
「全く、言ったそばからやるとはな・・・ほれ。」
自分の注意が何の役にも立たなかった事に呆れながら、キルシェも征樹にならったかのようにニアへと手を差し伸べる。
「・・・。」
「どうした?」
差し伸べられた二人の手をじっと見つめたまま動かないニア。
いい加減目立つので、早く起き上がって欲しいところなのだが・・・。
「エヘヘ。」
にへらっと笑いながら、二人の手を取ってようやく立ち上がる。
が、取った手を一向に離そうとしない。
「二ア?」
ニアの反応、ある意味で無反応を訝しげに思いながら、征樹は首を傾げる。
顔面はしたたかに売ったが、衝撃が頭までに達したか?と何処か冷静に見つめて。
「一緒。」
「は?」
「一緒イイデス。」
二人の手を一瞬だけ離し、ニアは二人の腕を取る。
そまま彼女を挟むようにして、ニアは腕を組んだ。
征樹とキルシェの真ん中で・・・。
そして、笑顔で。
「これはなんというか・・・。」
複雑な気分だと言おうとして思い留まる。
流石に楽しそうなニアの笑顔を曇らせたくはない。
だが、本音のところはかなり恥ずかしい。
「なんというか、恥ずかしい気がするぞ、我が妹よ。」
そんな征樹の心の動きもおかまいなしにキルシェは、彼が思い留まった言葉をさらりと言ってのける。
「キルシェ、そこは・・・。」
大人の余裕というか、姉の余裕というか、そういった類いのモノを発揮するべきなのではないだろうか。
征樹は自分の先程までの思考を棚に上げる。
「三人横に並んだら邪魔ではないか?大体、コレを真ん中にしたらこっちが振り回されてしまう。」
確かに一番真ん中のニアに高さがあるだけに、キルシェが述べたような不都合が起きそうだ。
「子供でもあるまいしな。」
それも一理ある。
だが、ニアのコンプレックスや現状を征樹は解らなくもない。
それを埋めたいという衝動も。
これはニアなりの甘え方、それが最近の征樹には気づけるようになってきていた。
「ニア。」
征樹は彼女に一声かけると、その腕を解く。
「あぅ・・・。」
とても悲しげな表情をするニアを横目に、征樹は彼女の後ろへと周りこむと、そのままぐるりとキルシェの横に立ち徐に彼女の腕を取る。
「征樹?」
「ニア、この方が歩き易いよ?」
「ヲイ、オマエ・・・。」
一番小さなキルシェを真ん中に征樹がニアを取り囲む形。
キルシェの抗議と非難めいた言葉は完全にスルーだ。
「・・・・・・一緒デス。」
「うん、一緒だね。」
これくらいが征樹にとっての妥協点だ。
それでも恥ずかしい事には変わりないが、アンバランスさ加減は改善されている分、それも軽減されている。
些細な割り合いではあるが。
「あのな・・・。」
「じゃ、行こうか。」
「・・・はぁ・・・解った、好きにしろ。」
結局はキルシェが折れて、三人はそのまま仲良く歩き出した。