第C&Ⅷ十Ⅰ話:凸と凹。
「腑に落ちん・・・。」
腕を組み、尊大な態度が似合わないサイズの女性。
キルシェである。
キルシェが腑に落ちない点、それは何かと言えば先程から彼女の視界でチョロチョロしている、それでいて無視出来ないサイズの妹だ。
「何が?」
「オマエの脳内で、一体"デート"という単語がどういう定義で成り立っているのかとな。」
鈴村より先にデートというのは、彼女を思う存分からかえたという意味で気分が良かった。
そこまでは良かったのだ、そこまでは。
勿論、妹を誘った事も"日頃の感謝"という事だったら許せなくもない。
だが何故に二人同時になのかと。
「いや・・・ニアが・・・。」
「ニアが?」
「お姉さんと一緒がいいって・・・。」
「アイツが?」
「二人でたまには出掛けてみたいとかなんとか・・・。」
そう言えば、練習と称してニアを何処かへ行かせる事はあっても、二人一緒に何処かに行くという事は少ない。
二人で海兼温泉旅行には行ったが、後にも先にも二人一緒に何処かに行ったのは皆無だった。
「・・・ダメだな。私は意外とダメな姉なのかも知れん。」
妹の願いを叶えるどころか、それを察する事も出来ない。
「どうかな。」
凄い姉ではあるが、決してダメな姉だとは征樹は思わない。
征樹自身は一人っ子だから、何がどうとは言えないが。
彼女達と出掛ける前に奏で歌南、二人の姉妹を見たからかも知れない。
「ダメだったり、嫌いなお姉さんと一緒に出掛けたいなんて言い出すかな、ニアは。」
他人の征樹であさえ、彼女が姉だったらと考えた時に自慢の姉だろうと思うのだ。
血の繋がったニアならば尚更ではないだろうか?
「アレは優しいからな。」
そういうニアの性分も征樹には理解出来る。
確かにニアは素直で良い子だ。
征樹だとて、妹がいるならこういう妹がいい。
背が自分より高いのは、征樹自身が低い部類に入るからという理由づけをして目を瞑る事にする。
ニアだって、自身の身長にコンプレックスがないわけではないのだからと。
「どちらにしても、お姉さんと何処かに行きたいと言ったのはニアなんだから、叶えてあげてよ、"お姉ちゃん"。」
「ぐ、ぬぅ・・・。」
苦笑しながらそう囁く征樹に、キルシェはぐぅの音も出ない。
「お姉サン、スゴいデス!!」
顔面がくっつきそうなくらいに水槽にへばりつくニアが、振り向きもせずにブンブンと手を振ってこちらを手招きしていた。
「ね?」
「全く、アレは・・・。」
余りにもニアの興奮っぷりに征樹は苦笑を、キルシェは呆れを以って迎える。
「確かに国には水族館というものはほとんどないが・・・ん?征樹、この場所は?」
「うん、ニアのリクエスト。」
なるほど、あの興奮ぶりにも頷ける。
「・・・仕方ない、楽しむとするか・・・。」
「だね。」
「コッチも凄いデス!」
はしゃぎようが半端ない。
「ニア、そんな水槽ばっかり見て迷子に・・・。」
迷子になるよと言おうとして、征樹はキルシェを見る。
そして次にニア。
「なんだ?」
二人を十二分に見比べて・・・。
「いや・・・はしゃいでるけど目印になるのと、落ち着いているけど人ごみに埋もれるのと、どっちが迷子になり易いのかと・・・。」
着眼点は二人の身長。
「なるかっ!」
案の定、キルシェに突っ込まれる。
だが、こういう事を真剣に考えたりするのが、征樹という人間なのである。
「オマエはもっとデリカシーをというものを学べ。」
そういうキルシェの言い分ももっともである。
今更な感もあるが。
「・・・善処します。」
「何処ぞの政治屋だ?オマエは。」
いきなりそれを身につけろというのも無理があるのではと反論したくなるのをぐっと堪える。
「二人トモ、早ク早ク!」