第C&Ⅷx十話:またねのキセツ。
「今日はこめんね。」
「なにが?」
突然現れた奏は、征樹と一緒に夕飯をとった。
無論、彼女の手作りだ。
今は奏を途中まで送っているところで・・・彼女が呟いた。
「急に歌南に合わせたり、お邪魔しちゃったりと・・・。」
しゅんと頭を垂れる。
「別に問題はないよ。」
征樹は自分が一番気になっていた、今日のデートは奏的にあれでよかったのだろうかという点が、奏自身の中で問題になっていないのならばと、そう発言する。
「どうしても・・・向こうに行く前に会わせておきたくて・・・あの子の為にも。」
以前、歌南の話を奏が征樹にした時、伝えようとして伝えられなかった事がこれだった。
「"帰って来てから"でも良かったけれど。」
この世に必ずというモノはないかも知れない。
それでも征樹はそう信じる事にした。
信じて言わなければと。
「そう、だね。」
「これでも昔の僕なら、こんな事を言わなかったかも知れない。」
言わなかったというよりは、言えなかっただろう。
「征樹くんは・・・歌南と会えて良かった?」
もしかしたら、もう帰って来られないかも知れない。
その時、征樹はどんなに傷つくだろう。
奏はそう考えもした。
しかし、奏は歌南の姉として・・・。
どちらが大事という事はない。
当然、どちらも大切だ。
「会えて・・・。」
少し考えて。
「うん、良かった。次に会う"約束"も出来たし。」
正直、昔の事はあまり覚えていなかったけれども、これから先の事はそれとは別だ。
果たされない約束かも知れない、しかし少なくとも果たそうと今を生きてゆく事は出来る。
約束には、そういう面もあるのだと征樹は感じていた。
「・・・じゃあ・・・・・・私とは?」
「勿論。」
これには考えるまでもなく、即答した。
「そう・・・ね、私がいなくなったらどうする?」
「どうって?」
いつにも増して質問も口数も多い奏。
その横顔を見るととても儚げに思える。
「何かあった?」
たとえば・・・歌南について行くとか。
「ううん。ちょっと進路で・・・。ほら、全寮制の学校とか、行ってみようかなって。」
想像していたよりは深刻ではない征樹は安堵するが、彼女の横顔を見る限り、彼女にとっては深刻なのだろう。
「・・・ずっと会えなくなるわけじゃないから。」
安堵しているという自分に、征樹は心の中で一人苦笑する。
それと、彼女も自分と同じような事を考えていたという事実にも。
「これから先、きっと色んな事があって、色んな道があって・・・そういう事はいくらでもあるから・・・でも、ずっと会えないわけじゃないなら、それでいいと思う。」
生きてさえすれば。
「だから約束ってするんじゃないかな?」
また会いたいから、もう会えなくなるのは嫌だから。
征樹にとって約束とは、"死なない限り"永続的に有効なものというのが、定義の一部に組み込まれてしまっているようだった。
「なら、私とも約束しよう?それとも私なんかとは・・・嫌?」
自分で約束をしようと言ってみてから、嫌かと聞くところが奏らしい。
「かまわないけど・・・一体、何を約束すれば・・・?」
奏が全寮制の学校に行けたとしても、それは半年以上も先の話だ。
確定してもいないし、今から約束するのは早過ぎる気もする。
「あ・・・そう、だね。何言ってるだろ私。あはは。」
自分の抜けたトコロを指摘され、赤面する奏。
今までが散々シリアスだったが為に余計に恥ずかしい。
まさに穴があったら入りたいとはこの事だ。
征樹も征樹で、未だ女心の入口も理解出来ずといったところでもある。
「そうだなぁ・・・じゃあ、"またね"とか?」
そう言って、征樹は自分の小指を奏にそっとさし出す。
多少、幼稚な気もするが、やはり約束の定番といったらコレだろう。
そこは征樹も譲れない。
「うん。じゃあ、"またね"。」
そう言って、奏も自分の小指をそっと征樹にさし出し、そして二人は約束の指切りをした。