第C&Ⅶ十Ⅸ話:思い出は一日の終わりとともに?
「う~ん・・・。」
唸る征樹の手に握られているのは、携帯と一枚の紙。
(これ、どう違うんだ?)
紙の方はプリクラである。
奏と歌南の三人で撮ったものだ。
そこには特徴ある丸っこい字で"ずっと大好き"と書かれていた。
ちなみにこれは歌南が書き込んだ。
そして携帯には、同じように奏と歌南と三人で写っている待ち受け画面。
こちらも歌南が勝手に待ち受けに登録した。
征樹は初期設定のままだったからだ。
「征樹くん、どうかしたの?」
奏と一日を過ごして帰宅し、唐突に唸り始めた征樹に何事だろうと静流は問う。
今日の奏とのデートがどうだったのか気にならないわけではないが、そこには大人の余裕とやらを以って自制しなければ、と。
「いえ・・・ただ、この二つにどう違いがあるんだろうと・・・。」
片や三人で写ったプリクラ、片や携帯で撮った写真。
どちらも画像データで、プリントアウトされているか否かの違いしかない。
なのに何故わざわざゲームセンターまで行って撮ったのだろうかと。
厳密に言えば、シール状であるとか、書き込みが出来るとかの違いがあるのだが。
どちらも初体験の征樹には、初体験でなくとも理解し難かった。
「あら、いいじゃない。これも思い出作りのうちよ。」
と、軽く流したつもり・・・あくまでも静流的に。
内心は、見知らぬ女の子が一人増えて、かつ大好きの文字と三人の距離の近さに謎の嵐であった。
誰なのかと聞きたい、何をしたかも合わせて聞いてみたい。
それが頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。
「思い出作りか・・・。」
一方の征樹は、そんな静流の思いも知らず、こなんなものが思いで作りになるのだろうかと考える。
写真には変えられないから、保存性は別として、そういうものになるのかも知れない。
「撮った時、楽しそうだったでしょう?」
征樹の複雑そうな表情に自分の感情をなんとか宥める静流。
「楽しそう・・・。」
『まーくんのプリクラげっとー。はい、こっちはまーくんの分。』
切り分けたプリクラを手渡す歌南。
『また遊ぼうね。』
そういって体全体を使って自分に手を振る歌南。
「・・・かな、うん。」
確かに嬉しそうだった。
(でも、奏先輩はあれで良かったのかな?)
静流の言う通り歌南は楽しそうではあったが、奏はあれで楽しかったのだろうか?
今回はデートという名目だったはず。
メインは奏なのだ。
「う~ん・・・。」
結局、また唸る羽目に。
「こんばんは~。」
「あら、今のは奏さん、よね?」
「ですね。」
玄関先から上がった声に、静流と征樹は顔を見合わせる。
とにかく二人でずっとこうしているわけにもいかず、征樹は玄関へと向かった。
そして、その後を追いかけて静流も玄関へと。
「どうしたんですか?というか、歌南は?」
片手に袋を提げた奏がそこにいた。
どうやら一度帰宅したらしく、先程と身なりが変わっている。
「歌南は帰ったよ。あのコを途中まで送ってから来たの。」
「そう・・・。」
突然来て、突然帰って行った彼女をふと思う。
「すっごく喜んでた・・・あの、ありがとう。」
そう言ってにっこりと微笑む奏に征樹は先程考えていた事は、あれはあれでいいのかも知れないという結論に至る。
「いや、それは別に・・・でも、じゃあなにしに?」
「だ、だってデートは"今日一日"なんでしょう?そ、その、まだ今日は終わってないから・・・だから・・・・。」
一理ある。
まだ今日という日は終わってはいない。
デートだって、これという明確な終わり方は決まっているわけでもないだろう。
ならば、奏が征樹に会いに来たとていはずである。
第一、奏が家に来る事は今までだって何度もあった、特別という事もない。
「うん・・・どうぞ。」
「お邪魔します。」
断わる理由も征樹にはなく、奏の主張に軍配が上がったのだった。