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貴方と背中を合わせる理由。(仮)  作者: はつい
第拾縁:ほら、そこに愛はある。
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第C&Ⅶ十Ⅷ話:また夏が来た時に・・・。

 テンションの高い歌南だったが、やはり何かを食べる時くらいは大人しかった。

そんなところも杏奈に似ていると思ったが、似ているというより同年代の女子はこういうものなのではないかと征樹は考えを新たにする。

ケーキを食べた後の歌南の口を拭く奏のその様は、征樹に羨ましく見えた。

もっとも征樹の場合は、口を拭いてもらえるという事ではなく、姉妹というモノにだ。

それは一人っ子では決して味わえない経験だから。

今の年齢で征樹がこんな事をされたら、恥ずかしくて仕方が無いが。


「でもさ・・・。」


「ん?」


 ケーキを食べ終わえたところで、奏が買い忘れた本があるとかで、思わぬところで二人で話す機会が出来た。


「まーくんは、本当に格好良くなったなぁ。」


「そうか。」


 そんな事を言われても征樹は反応に困る。

大体において、幼い頃と比べる事自体がどうかと・・・。


「突然引っ越す事になっちゃったから、どうしてるか気になってたんだ・・・。」


 気になる程度には、やはり幼い頃の自分は彼女と親しかったらしい。


「どうしてるもなにも・・・。」


「色々あったんでしょ?」


 "色々"の中には、当然征樹の母の死も含まれている。


「まぁ、ね。でも、大きな悪い事を相殺する為の、小さい良い事が沢山あったから。」


 少なくとも、それを考える時間は減ったし、最近は夢で魘される頻度も少なくなった。


「うん、ならいっか。あ~、ホント、最後(・・)に会えてよかったな。」


「最後?」


 本の背表紙を見てから、表紙、あらすじと見る仕草は奏のそれにそっくりだった。


「うん、今度ね、外国に行くんだ。」


「いつだ?」


「夏休みが終わったらすぐ。」


「帰って来ないのか?」


 最後と彼女は言ったから。


「さぁ、どうかな・・・アタシね、向こうで手術するコトになっちゃってさぁ。リハビリ含めたら、何年かかるか・・・。」


 手術をする為に外国へ、そしてリハビリ。

この二つから征樹は彼女が大手術を受けるのでは、という憶測にすぐさま到達する。

そして、核心をはぐらかそうという事も。


「・・・やっぱり似ているな。」


 征樹は再認識する。

離れていた暮らしていたわりには、奏と歌南は似ていると。


「なにが?」


「そういうのを表に出さない、出せないところ。」


 二人ともある意味で引っ込み思案で、なかなか自分の主張を表に出さない。

そういうところは征樹にもないというわけではないが。


「最後なんて言うな。歌南から見た僕はそんなに変わってなかったんだろう?」


 最後。

もう二度と会えない、会いたくとも会えない場所に逝ってしまうという事の辛さは、征樹は当然理解している。

思う存分、理解させられた。

そんな想いがこもった征樹の少々強めになってしまった口調に、歌南はコクコクと何度も頷く。


「なら、次に会う時だって変わらない。僕はここにいる(・・・・・・・)。僕と歌南は幼馴染なんだから。」


 認定(?)幼馴染の杏奈と違って、歌南は定義としての本当の幼馴染だ。


「・・・また会いに来てもいいかな?来年になるか、再来年になるか解らないケド。」


「勿論。今日は、本当は奏先輩との夏の思い出作りって名目だったんだけれど、今度は・・・。」


 今度は歌南との夏の思い出作りというのもいいかも知れない。

そう征樹は思う。


「お姉ちゃんとの?」


「あぁ。」


 それがどうしてこういう流れになったのかは、征樹自身よく解らなかったけれど。


「そっか・・・だったら、アタシも作りたいなー、思い出。」


「元気になったらな。」


 今も外見上、特に問題なく元気に見えるが・・・。


「お待たせ。どうかした?」


 新たに本を購入し、紙袋に包んでもらった本を腕に、奏が二人の下へ駆けて来る。


「な~んにもっ。あ、そっかぁ。お姉ちゃんとまーくんが付き合ってないなら、アタシにもチャンスがあるってコトだよねっ。」


「え?」


(チャンスがあるもなにも、僕は何も言ってないんだけれど・・・。)


 段々、歌南のノリに慣れ始めた征樹と硬直する奏。


「だったら、早く治して帰って来なくっちゃ。」


「歌南・・・。」


 歌南の屈託のない笑顔に奏は心底ほっとする。

それとやはり、妹を征樹に会わせて良かった。

姉としての責務ではないが、最低限の事を妹にしてあげられた。

連絡は取り合ってはいたが、今まで離れて過ごしていた分の想いを込めて。

それでなくても自分は征樹の傍にいて、何度も会っていて、妹は離れた場にいてなかなか会えないという差もある。

そして、これからはもっと会うのは困難になるのだ。

しかし・・・。


「あ、なんなら、まーくんがアタシに会いに来てくれる?」


「ん?あぁ・・・それもいいかもな。」


 その行為は、無駄にライバルを増やしただけの結果になった気もしなくもない、複雑な心境の奏であった。

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