第C&Ⅶ十Ⅶ話:歌南。
「んふふ~♪」
杏奈に似ていると評された歌南は、席についた後、征樹と奏を交互に眺めながら上機嫌に微笑んでいた。
「楽しそうね?」
メニューを見ながら、征樹は姉妹を見比べる。
全体的に発育は歌南の方がいいように思えるが、肌の色は奏の方がいい。
特に歌南との共通の話題がない故に出来る行動だった。
「そりゃあもう♪だって夏休み最後のチャンスにお姉ちゃんに会えると思って喜んだら、まーくんも来るって言うんだもんっ。」
(僕はそんな事を聞いてなかったけれど。)
サプライズ的な遭遇だった。
そして、一向にまーくんと呼ばれる事に慣れない。
「普段から連絡を取っているの?」
征樹は二人に質問する。
夏休みでなければ会えない、頻繁に会える距離にいなさそうな二人の様子がなんとなく気になったからだ。
「ん?あ~、頻繁って程じゃないけどねー?」
姉である奏に同意を求めると、奏も頷き返す。
それだけでも姉妹の仲は良い方だと伺える。
「ふぅん。」
「でも、まーくん、あんまり変わってないなぁ。いや、そりゃ、男の人っていう成長の部分を除いてね。」
「変わってない?」
歌南の言葉に驚きを隠せない。
杏奈も奏も・・・冬子でさえ、自分の事を変わったと言っていたというのに。
「あ、ん~、小さい頃よりは格好良くなったよ。・・・その・・・お母さんの事も聞いたけど。」
どうやら奏は征樹の事をそれ程には深く話していないようだ。
「変わってないか・・・。」
征樹の様子を見て、奏は内心冷や冷やしていた。
妹は竹を割ったというか、何事にもストレートなタチで、もしかしたら征樹の気に障る事を言いやしないだろうかと。
「もし、そうなら・・・きっとお姉さん達のお陰かな。」
「え?」
今、征樹は何と言ったのだろうか?
もしや、幻聴?
奏にとってそういったレベルの発言だった。
「そうなの?あ、もしかして、まーくっとお姉ちゃんて付き合ってるとか?ん?でも、今、"達"って・・・。」
征樹の言った複数形に首を傾げる。
「色々あったんだよ・・・。」
果たして、それが色々という言葉だけで片付けても良いものかという問題はあるが。
「多分、辛い事だったり、嫌な事だってあったんだろうけれど、奏先輩や、それ以外の人達のお陰でなんとかやってこられたんだと思う。」
少なくとも、目の前にいる歌南の目から見て、変わっていないと言われるくらいには。
「あぁ、なるほどね。そっかぁ、お姉ちゃんも役に立つんだねぇ。」
「歌南・・・ひどぃ・・・。」
うぅっと、妹の言いように項垂れる。
「・・・歌南のせいもあるよ。」
自分が昔、彼女をどのように呼んでいたのかは思い出せないが。
同じ年齢ならば、呼び捨てでも構わないだろう。
「アタシ?」
「だって、歌南に会わなければ、歌南が僕の事を奏先輩に伝えなければ、僕と奏先輩は会えてない。」
征樹はそう言いながら、ある人の言葉を思い出していた。
それはキルシェの言っていた"縁"という言葉だ。
彼女の言葉を使えば、歌南との縁があったから、奏の縁へと繋がったという事になる。
「それでアタシのせいってコトかぁ。」
「間違ってはいないだろう?」
「うん、間違ってないね。」
奏がいなければ、この夏に歌南に再び会う事もなかった。
思い出す事すらも。
夏の思い出だって、何割かは減っていた。
「そっかぁ、じゃ、アタシも役に立ったんだ。アタシ偉いっ!」
自画自賛にパチパチと手を叩いて笑う。
「感謝しないとね。」
今日という縁に。
「そっか・・・んじゃ、そろそろ何か頼むとしましょう。ケーキとかチョー美味しそうなんだもん。」