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貴方と背中を合わせる理由。(仮)  作者: はつい
第拾縁:ほら、そこに愛はある。
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第C&Ⅶ十Ⅴ話:奏。

「退屈?」


 退屈?

自分にそう問う少女の眼差しを見て、征樹は思う。

"退屈"とは自分にとってなんだったのだろう?


「いや、なんか・・・。」


「?」


 言いよどむ征樹の言葉を待つ。

目の前の少女は、そういう配慮を持っていてくれたからこそ、征樹はゆっくりと考え、ちゃんと言葉に出せてこられたのかも知れない。


「今年の夏は、退屈と思う暇も無かったような・・・。」


 はっきりとは断言出来ないが、退屈とはなどという根本的な問いが出てきたくらいなのだから、そういう事なのだろうと判断と推測出来る。


「いいんじゃないかな?」


「奏先輩?」


 デートの一番手、奏は微笑む。

場所は、征樹達の住んでいる所から、電車で30分程の都心、ビル一棟丸ごとという規模の本屋だった。


「今までが、一人で居過ぎたんだと私は思うから。」


 その不平不満すらも黙殺しようとする征樹がずっと気になっていた。

それが最初。


「そうなのかな?」


 黙殺していることすらも認識出来ない、だけれど優しい少年に魅かれていった。


「そうだよ。だから、今みたいなのは、今までのに利子がついたと思えば・・・いいと思う。」


 奏は本棚にずらりと並べられた本を手に取り、表紙を眺めては時折、その本のあらすじや解説を見てまた戻すを繰り返しながら。


(ちょっとデートなのに地味だったかな・・・。)


 行き先のチョイスを間違えたのではないかと考えていた。

しかし、ここが奏にとって都合が良かったのも確かだ。


「利子か・・・だとしたら、随分貯まっていたとしかいいようがない気が・・・。」


 それに利子だとするならば、一度に下ろす量も自分で決めたいところだ。


「ね。でも、それだけ貯金があったんだよ。本当は。」


 それはこうならなければ、征樹にだってあったかも知れない未来のカタチ。

過去は変えられないのだから、それを論じるのはナンセンスなようにも思われる。

しかし、今からだって取り戻せるものは幾つもあるだろうし、ここから先になる未来は、"今の征樹"が決められる。

何より、もう一人などとは言えないのだから。


「ねぇ、征樹くん。この本屋ね、上の階に買った本が読める喫茶店があるの。行ってみない?」


 だから奏も、他の女性達と同じようにそれを征樹に取り戻してやりたいと思う。

いや、取り戻す事が可能なのだと証明したいのだ。

特に奏と杏奈は昔の征樹を知っている分、その傾向が強い。

だから、なんだがかんだで杏奈を一番意識する、一番ウマが合う。

そういう女友達が出来たのも、征樹がいたからだと言える。

四之宮 奏は、そういう結論に達した。

そして、やはり彼の事が好きなんだなぁ、自分。

と、しみじみと・・・。


「喫茶店?うん、行ってみようかな。」


「あ、でも、本を買ってからにしないと。」


「それもそうか。」


 征樹のそんな様子に奏はクスリと笑う。

そして、ほら、やっぱり楽しい、と。

男子と話すではなく、傍にいるだけで楽しいと思えるのは、正直征樹以外にはいない。

これから先、そういう人物が現れるとしても、その数は多くはないだろうと奏は思っている。

だからこそ、征樹には幸せになってもらいたい、幸せにしてあげたい。

その気持ちは、引っ込み思案の奏ですら、他の誰にも負けないと言い切れる。


「私は新しい参考書を買うから。」


「僕は文庫を。じゃあ、先に先輩の本を買った方がいいかな。売り場がここから近いみたいだし。」


「征樹くん?」


「はい?」


 奏は眉間に皺を寄せる。


「"先輩"じゃないよ?デートなんだから、名前で呼ばないと。」


「・・・・・・奏・・・さん。」


 精一杯の譲歩だ。


「"さん"もいらないよ。」


 それではダメダメと言わんばかりに、腰に手をあてて怒ったフリをする。


「あぁ・・・えーっと・・・。」


 困って照れる征樹も可愛いなと思いつつ、奏は何時ものように征樹が言い直すのをじっくり待つ。

奏は、征樹相手ならばそれが出来るのだから。


「か、奏・・・。」


「うん、行こう。」


 征樹の言葉に満面の笑みを浮かべ、奏は赤面しながら自分から征樹の手を握って歩き出すのだった。

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