第C&Ⅶ十Ⅳ話:正しき段取りの仕方?
キルシェが"出会った順"と勝手に結論づけた一方で、当の征樹はそれどころではなく誰が一番か揉めていたのは内緒の話。
理由は簡単だ。
"行き先"が被ったから目もあてられないからである。
滅多にない事だとはいえ、ありえない話ではない。
特に征樹が行き先を決めた場合において。
それらを考慮して、一番最初に行き先は女性側が決めるという方向になった。
男としては、少々情けなくもあるが、実に賢い選択だと征樹自身でも思ってしまったので仕方が無い。
「結局、順番は征樹くんが決める事になっちゃったけれど、大丈夫?」
行き先は女性側が決めるとして、ならば順番くらいは征樹に決めさせよう。
それが公平(?)だという妥協点に落ち着いた。
「まぁ、多分。」
静流の気遣いの言葉にそうは答えたのだが、今ひとつ頼りない。
「順番て言っても、皆の都合もあるから・・・。」
奏は受験勉強もあるだろうし、鈴村とキルシェは仕事もある・・・あぁ、そういえば杏奈もあったな、宿題が。
そんな事を征樹は思いつつ・・・。
「ま、なんとかなるか。」
最近、いい意味で杏奈のアバウトさがうつった気もしなくもない。
(一体、何人と・・・誰が最初なのかしら。)
順番に特に意味が無いと解っていても、気になってしまうのはどうにも出来ない。
きっと同じように皆も悶々としながら帰ったのだろう。
いや、あのままいたら、逆に聞いてしまいそうになるからかも知れない。
それに、一体、征樹が日頃、世話になっていたり思い出を作りたい人間というのが、誰で全部で何人いるのかというのも気になる。
「静流さんは・・・。」
「?」
「何処へ行きたいのかな?」
先程も説明した通り、行き先は女性次第、征樹だって気になるのである。
「そうね・・・何処がいいかしら?」
思わず聞き返してしまう。
「そんな勿体ぶらなくても・・・。」
征樹はそうとらえたが、静流としては決して勿体ぶっているというわけではない。
デート、しかも征樹の年齢に合わせた場所、そうやって行き先を絞ってみても、候補は沢山あった。
しかし、なんというか、どれもインパクト・パンチに欠ける気がしてくる。
何より順番だ。
行き先を決めても被ってしまっては・・・。
「ねぇ、征樹くん?」
「なんでしょう?」
正直、静流とてこういう事は言いたくないのだが・・・。
「悪いけれど、誰とは言わなくていいから、他の人といった場所だけは、皆に教えてくれる?」
「?どうして?」
気づいていないらしい。
「ほら、他の人と同じ場所に行っても楽しくないでしょう?」
どうして自分がここまで説明しなければならないのだろう、征樹くんの鈍感!と思いつつ。
「同じ場所でも、一緒に行く相手が違えば全然違うと思うんだけれど・・・。」
やっぱり解っていなかった。
この場合は人間関係云々ではなく、"女心"が。
もっとも、女心の解る征樹というものを想像して、まだこっちの方がいいかと思わなくもない静流だった。
「う~ん・・・そうかも知れないけれどね、ほら、相手の女性の方が変に気を遣っちゃうといけないし、それだと楽しめないでしょう?」
「・・・・・・そういうものなのか。」
「そういうものなの。」
もはや力技で丸め込むしかないと、言葉に圧力をかけつつ静流は答える。
「・・・解った。静流さんがそういうなら。」
これで誰かと被る心配は払拭された。
それにしても最近の征樹は素直に周りの、自分の言葉を聞くようになったものだと静流は思う。
元々、相手の主張が正しければ、取り入れるタイプではあったが。
(・・・なんか、調教しているみたい。)
いたいけな美少年を(自分好みに)調教。
そんな言葉が脳裏に浮かんだのを必死で振り払おうと赤面する静流であった。