第C&Ⅶ十Ⅱ話:花火は散っても・・・。
「キレイだね、ねっ!」
ぐるぐると手を回す杏奈と光の軌跡。
角部屋の特権である小さな庭での花火。
はしゃいでいる姿を征樹は眺めていた。
杏奈の持って来た花火を、皆でやる夏の時間。
「こっちもキレイ・・・。」
弾ける火花をしゃがみながら見つめているのは奏。
「綺麗だけど少し寂しいね・・・。」
それはとても儚い。
夏の終わり。
「なら、ちゃんと覚えておかないといけないわ。」
「静流さん。」
「はい、征樹くんも。」
そう言って征樹に、持っていた手持ち花火を渡す。
「楽しかった事を思い出として覚えて、また来年もすればいいの。」
そう微笑んで、琴音は自分の火のついた花火を征樹の持った花火に寄せる。
「今年の夏は、一人じゃなかったって。」
もらい火をして、征樹の花火に火がつき、火花を吐き出し始めた。
「今年の夏はどうだったかしら?」
火花を吐き出し続ける征樹の花火に、今度は静流が持っていた花火を寄せ・・・。
「楽しかった?」
次に奏が・・・。」
「楽しかったよね~。いっぱい遊んだもん。・・・宿題はホント、大変だったケド。」
その次は杏奈。
皆、一列になって、思い思いに各々の花火を眺める。
すると何故だか、ちょっぴり悲しく、寂しく感じたのも薄れてゆく気がしてくる。
征樹は、昔、母と何度かした花火を思い出していた。
思い出しても、今は悲しくない。
寧ろ、少しだけ微笑む事が出来た。
これが思い出というモノなのだろうかと、征樹は考える。
たとえ、この先、別々の道を行き、会えなくなっても、この時を思い出したら楽しかったと振り返れるのだろうか。
不思議でならない。
でも、確かにこの夏、皆で花火をしたというのは、確固たる事実で・・・。
「綺麗だ・・・。」
カレーを作っていた時のモヤモヤまでもが、何時の間にか薄れていた。
「でも、ね。」
やがて火花は勢いを失くし、辺りは再び暗闇に包まれる。
勿論、それなりの照明は辺りにあったが。
「まだちょっぴり夏休みは残ってるよ。」
征樹を見つめる奏。
まだ夏は完全に終わりではない。
まだまだ思い出は作れるチャンスはある。
いずれ、バラバラになるとしてもだ、思い出せる出来事が多い事に越したことはない。
「おぉ~。いいねいいね。何しよっか?」
「杏奈さんは、その前に宿題の残りを・・・。」
「うぇ~。先輩、今はそれだけは言わないで~。」
「まだ終わってなかったのか。」
ぐったりする杏奈に呆れる征樹。
いつもの定番になりつつある光景。
「旅行、水着、海、花火って来たら~。プールか、浴衣かしら~?」
「浴衣、いいわね。」
それはとても風流で涼しそうだと静流も同意する。
夏祭りは時期的にもう終わってしまったが、浴衣くらい着てもいいだろう。
「あ、はいはい!流しそーめんっ!」
「さっき、カレー食べただろう。」
花より団子、色気より食い気なのは、相変わらずの杏奈のキャラである。
「あ、でも、浴衣で流し素麺はいいです。」
「同時にやるつもりですか、先輩。」
意外とノリが良い。
「残り少ない夏の思い出なら、こういうのはどうかしら~?」
琴音の提案。
なにやら怪しい。
聞いてみたいような、聞きたくないような・・・。
「一人、一日ずつ、征樹ちゃんとデートっていうのは~どぉ~お?」
「賛成!」 「しましょう!」
即座に賛同したのは杏奈、そして珍しく奏。
「これなら一週間以内に出来るもの~。」
「ん?一週間?」
何故、そんな日数がかかるのだろうと征樹は首を傾げる。
一人、一日と琴音は言わなかっただろうか?
だとしたら・・・。
「杏奈と奏先輩と・・・。」
「私と~、静流さん。それと鈴村さんと~、征樹ちゃんの他のお友達ね♪」
どんなイベントだろうか、ソレ。
突っ込みたいのを我慢する征樹に、微笑む琴音。
「ね?」
夏はまだまだ続く・・・。




