第C&Ⅶ十Ⅰ話:家庭の味、アナタの味。
「いやぁ、食べた、食べた。」
杏奈が満腹の声を上げる。
先程までとはうって変わった食卓。
「ごちそうさまでした。」
杏奈の声に呼応するかのように奏も声を上げる。
「カレーって、その家の味が出ますね。」
「あ、解る解る~。ウチのはもうちょっと、なんだろう濃いかな?ソースとか入ってるのよ。」
ちょっとした隠し味というものだろうか?
「へぇ。」
料理に対して、そこそこの腕に覚えのある征樹は、興味深そうに聞き入る。
「うちはもっと甘いかも。玉葱のみじん切りとバターが入ってるから・・・。」
征樹の興味のある話題だと気づくと奏も、杏奈に続いた。
「ん~、私は牛乳を入れるかしら~。」
小首を傾げる何時ものクセをしつつ、琴音も答える。
「なるほど。」
各々のカレーの特徴に征樹は相槌を打ちながら、脳内にメモしてゆく。
「静流さんは?」
「え?私?」
ぼーっと楽しそうにしている征樹の表情を満足げに眺めていた。
どうやら静流は、会話に入るタイミングを逃してしまったようだ。
「ウチは・・・え~と・・・野菜を具とは別にすり入れてたかしら。林檎とか人参、玉葱をも。」
確か、手伝いですり下ろした玉葱に涙を滝のように溢した幼い記憶がある。
「林檎はよく聞くなぁ。」
「うん、あと蜂蜜とかだよね?」
有名な何処かのメーカーのCMを思い浮かべる。
「ところで征樹のカレーには何が入ってんの?」
今し方食べたカレー。
「ヒミツ。」
「え~、ずるぅ~いっ。」
「そうですよ、皆話したんですから。」
「そうよねぇ~。」
何故、総がかりで自分が非難されなければならないのだろうと、少々被害妄想的になりつつ。
「毎回同じじゃないけど・・・。」
「けど?」
「ソースとケチャップを1:2と・・・玉葱のみじん切りをバターで炒めたのに、豆乳。」
「な、なんだか、アタシ達のより、手が込んでいるというか・・・。」
「ミックスしたみたいね~。」
意外と沢山のモノがカレーに入れられるものだと、皆が認識する。
しかし、そもそもカレーというのは、多種多様なスパイスが入っているものなのだから、この程度はそれからすればどうということではないだろう。
「あとは・・・気分で色々と隠し味。コーヒーだったり、チョコだったり・・・あとは・・・。」
いずれも隠し味なので少量だが。
「何?」
「・・・漢方の胃薬だったり。」
「い、胃薬ぃ~?!」
まさかの隠し味だった。
「でも、漢方の胃薬ってウコンとか生薬が入っているから、ある意味カレーのスパイスと共通する部分があるんじゃないかしら?」
成る程、静流の解説にも一理ある。
第一、そのカレーをたった今、皆が美味しそうに完食したばかりではないか。
しかも、杏奈はおかりまでしていた。
今更ぶーぶーと文句を述べるというのは、お門違いでしかない。
「ま、まぁ・・・美味しかったけど。」
そこに"征樹の手料理"という隠し味があったのは言うまでもない。
「そうですね。」
「こうやって征樹ちゃんの好みに変えられちゃうのね~。」
「・・・琴音さん。」
なにやら琴音が言うと響きがアレである。
その証拠に、何故か赤面している面々が・・・。
「あ!そうだ、アタシ、今日は花火持って来たんだよー!」
強制的に現在の話題を打ち切り、ごそごそとカバンから家庭用の花火をじゃっじゃじゃーんと2袋を出して見せる。
「やっぱり夏はコレじゃなきゃねっ。ねっ、ねっ?」
やろうやろうと、一人でテンションを上げる杏奈。
「何?」
「いや、杏奈にしては、気が利くなって。」
「ぶー、なんだよ、それぇ~。」
頬を膨らませる杏奈に、今までの雰囲気をなんとか払拭され、皆、微笑むのだった。
ほぅら、カレーが食べたくなる、食べたくなる(笑)