第C&Ⅶx十話:表現するコト。
「カレーパーティ~♪」
ノリノリで声を上げる杏奈。
征樹からの電話を受け、真っ先に飛んできたのだ。
勿論、彼の携帯番号は、既に自分の携帯に登録済。
これからは互いが捕まる確率が上がる事だろう。
それを含めて、今回の招待はテンションが上がってしまう。
たとえ、他の人間も招待だれているだろうと解ってても。
「いらっしゃい。」
いつになく(杏奈から見ても)機嫌が良いと解る征樹の微笑みに、更に嬉しさがこみ上げてくる。
だが、じっとそのまま自分の顔を見つめたまま征樹に、杏奈が首を傾げる。
「な、何?」
いつもとは違った反応。
それでなくとも好きな人に見つめられるという行為に戸惑わないわけがない。
「来てくれてありがとう。」
はっきりとそう述べると・・・。
「え?」
その声が何処から出たのか、杏奈にはよく解らなかった。
それが征樹の発言に関してか、はたまたその行動に関してか。
恐らくはその両方だろう。
征樹が杏奈の身体を優しく抱擁したのだ。
「どうしたの?何?何かあったの?」
今までにない方向性の征樹の行動に、そう聞き返してしまう杏奈は悪くはない。
「何にもない。」
征樹としては、自分の為に来てくれた事の礼を述べ、行動で表しただけ。
ただ、その表現が最大限で、かつ、杏奈の想像の領域の外だった。
「こんばんわっ?!」
「ん?」 「わ?」
杏奈の後ろから、語尾だけが変なインネーションで跳ね上がった挨拶に振り向く二人。
「奏先輩?!」
奏も杏奈と同じように思いがけない征樹の誘いに急いで駆けつけたクチなのだが・・・。
目の前で、二人が抱擁を交わしている現場に出くわし、あんな変な挨拶と相成ったわけである。
しかし、いつものようにここで慌てふためくという展開にはならなかった。
「あ・・・いいな。」
何がいいのかといえば、征樹の抱擁の事である。
(段々・・・。) (琴音さんに似てきた気がする・・・。)
頭に浮かんだ事は、征樹も杏奈も同じだった。
しかし、奏が言っているという事は、冗談でもなんでもなく、本気で言っているのだろう。
「あ、えと・・・。」
逆に困惑するのは、当の征樹の方だ。
正直なところ、杏奈を抱きしめる事は初めてではない。
その他に、同級生・幼馴染というのもある。
征樹自身、来てもらえたという事実が、今の行動を後押ししていたのは言うまでもない。
「・・・ないの、かな?」
これは本気だ。
本気で言っていると誰もが確信する。
そんな期待に満ちた眼差しで見られて、窮した征樹はチラリと杏奈を見る・・・と、あからさまに視線を逸らされた。
これは見ない振りをしてくれるという事だろうか?
「・・・はぁ・・・いらっしゃい、来てくれてありがとう。」
一番最初に溜め息が来るところが、征樹らしいといえばらしい。
ともあれ、征樹は奏と軽い抱擁を交わす。
思っていた以上に奏の細さに驚いたが。
「・・・やっぱり照れますね。」
「だ、だったら、言わないで下さい。」
そもそも、充分に堪能(?)してから言う事ではない。
(まぁ、普通に考えたら、ウラヤましいもんね。)
奏の気持ちは、杏奈にだって解らなくもない。
もし、順番が逆だったらと思うと余計に。
だから、奏の発言に突っ込みもしなかったし、困っていた征樹の視線もスルーした。
これくらは、と。
「こんばんは~。」
ただ、二度ある事は三度あるのが世の常で・・・。
良いと言えばいいのか、悪いと言えばいいのか、次に入って来たのは、噂の(?)琴音だった。
「あらぁ~、いいわねぇ~。私も~。」
征樹から奏が離れるやいなや、琴音が自分から征樹に抱きついてくる。
(似てると思ったけど、その上を行ったっ?!)
先程、奏の発言が琴音みたいだと思ったのも束の間、そこはやはりオリジナルというべきか。
「琴姉ぇ、くすぐったい。」
(しかもすりすりまで?!)
ここまでくると、もはや素直に驚くしかない。
「でも、来てくれてありがとう。」
「はいはい、お姉ちゃんすからね~。来ちゃいますよ~。」
この後、琴音を引き剥がすのに、征樹が四苦八苦したのは言うまでもない。




