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貴方と背中を合わせる理由。(仮)  作者: はつい
第玖縁:微笑みある方へ向かってみたら・・・・・・?
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第C&Ⅵ十Ⅸ話:アナタとカレーライス。

 夕飯の支度は既にメインのカレーが完成の一歩手前だった事もあって、静流が海草サラダを作るだけで済んだ。

海草サラダといっても、パックの海草を水で戻し、キュウリとレタスを切って並べる程度で、そう時間はかからなかった。

問題があるとすれば。カレーの量の多さである。

とても二人だけで食べきれる量じゃない。


「随分沢山作ったのね。」


「え?」


 並べられたサラダとカレーの前に二人で席に着いた時の第一声がそれだった。


「カレー。」


「あぁ・・・なんとなく。」


 さしたる理由も告げずに征樹は言葉を濁す。


「ああいうのって、ついつい作り過ぎちゃうのよね。」


 そんな征樹の様子に、静流は突っ込む事をせず、さらりと流す。

勿論、わざとだ。


「でも、かといって少ない量で作ると、あまり美味しく作れなったり・・・難しいし。」


 どことなく含みのある言い方をした後、カレーに手をつける。

カチャリとスプーンが皿に触れる音。


「本当は・・・。」


 その音に耐え切れなくなったのか、静流が必要以上に言及しなかったせいなのか、征樹が口を開く。


「皆が来てもいいように・・・一緒に食べられるようにって・・・。」


 どう考えても、ガス台の上にあるカレーの量は、ついつい作り過ぎたで済まされる量ではない事は明白だ。

だから静流はあえて何も聞かなかった。

言いたくならないなら、それでいいと・・・。


「そう。いいんじゃないかしら?」


「いいって・・・何が?」


「皆で食べたいなら、誘ってみればいいじゃない。」


 征樹はずっと受け身だった。

だから皆、あえて能動的に振舞ってきたのだ。

でも、本当に望むというのなら、時には自ら声を上げねばならぬ時もある。


「でも・・・。」


 一抹の不安。

断られるという事への。


「ダメなら、ダメでいいのよ。そうなったら、二人で頑張ってあの量のカレーをやっつければいいだけの話。ね?」


 味は落ちるが、冷凍というテもある。

ともかく、ダメならダメで、その時に考えればいい。

今よりはきっといい。


「理想の形、望む形があるなら、努力して、チャレンジしなきゃ損よ?」


 今回の事は、どちらかといえば難易度が低いだろう。

それに対して、少し大袈裟過ぎる感もあるが、物事には根底に共通するものが往々にして存在するのだ。


「・・・そうだね。解った。」


「あぁ、待って。」


 席を立つ征樹を制すると、先程まで机の上に置いていた荷物から四角い箱を取り出す。


「はい、コレ。」


「なんですか?」


「"あなたの携帯"。遠慮し過ぎはダメよ?次からちゃぁんと自分の口で言ってね?」


「あ・・・。」


 自分に突き出された箱に視線を落として、かたまる征樹。


「大丈夫よ。お父さんの事務所経由で、ちゃんと手続きしてあるから。これは正真正銘、征樹くんの携帯。」


 にっこりと微笑む。


「・・・ありがとう。」


 箱を手に取り、ぎゅっと抱きしめる征樹の姿に静流も満足する。


「どういたしまして。あ、私の携帯番号はもう入れてあるからね。」


 しかも、No,000自宅の次の番号001に。

せめて征樹の携帯の1番くらいは自分にしたっていいじゃないかという、ささやかな想い。

ある意味で、狡猾というか強かというか・・・負け犬ちっくな思考。


「じゃあ、早速コレで。知らない番号で出なかったとしても、留守録に入れておけばいいから・・・。」


 直接誘えなかったとしても、自分で電話をして望む事を述べて誘うという行為をしたという事には違いない。

今の征樹にとっては、それでも一歩前進したといえる。

だから、正直に願望を述べて、自分に礼を言って、そういう一つ一つの出来事が、静流には心から嬉しかった。

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