第C&Ⅵ十Ⅵ話:実録!姉への道?!
「悪い気は・・・せんな、他の者に姉と呼ばれるのも・・・。」
征樹が帰り、部屋に一人に・・・。
「忘れとった。先刻は、オマエの気持ちが少々解らないでもなかったぞ?」
思考の中から、机の下の住人を忘れてしまうくらいには。
「・・・て、オマエなぁ・・・。」
机の下にいる鈴村を覗き込むキルシェ。
「何故泣く・・・。」
そこには、体育座りをしたまま、めそめそと涙を流して泣く鈴村がいた。
「っく・・・征樹様が、私を"お姉ちゃん"と・・・。」
どうやら別段悲しくて涙を流しているわけではないようだ。
「・・・どうやら本気で"羨ましかった"んだな、オマエ。」
奏と杏奈、そしてその次に静流と琴音。
その四人よりも更に後発(?)の鈴村にとって、先に出会っていた者達への羨望は、キルシェが思っているよりも大きかったらしい。
しかも、他の者は愛称だったり、親称で呼ばれているのだ。
丁度、以前にも静流が精神的ダメージを負っていた件と共通のモノがあるだろう。
だが、理由の一端が判明したところで、ここは確実に呆れていいところなのであるには違いない。
「母上である清音様を姉と慕っていた私が、その清音様の忘れ形見である征樹様に姉と呼ばれる日が来るなんて・・・感動せずにいられるかっ!」
「とりあえず、机から這い出ながら吐く言葉ではないのは解るぞ。そして、私も姉と呼ばれたのだが?都合よく現実を脚色・修正するにも程があるぞ。」
それ以上、イッたらただの妄想だ。
既に片足突っ込んでいる感もある。
「征樹の言っていた事は聞いたな?」
そこに至るまでの征樹の重要なセリフまで改竄されていては敵わない。
キルシェが鈴村に確認すると、近くにあったティッシュで鼻をかみながら頷く。
「征樹は確かにまだまだ子供だが、最終決定権は彼にある。外野がとやかく言う事ではない。」
「私は外野のつもりはない!」
反論の声を上げるも、鼻の頭がほんのりと赤みを帯びている鈴村には、何の凄みもなかった。
「こちらに出来る事は、征樹が頼ってきた時だけ、的確な助言を与えるだけだ。それがひいては本人の為になる。」
キルシェは元より、征樹の周りにいる人間は基本的に皆そうしているのだ。
それなのに、鈴村が一人それを乱しては、征樹の教育、彼の今後の人生によろしくない。
「私だって征樹様の事を考えて・・・。」
「だから、今日、征樹が謝りに来たのではないか。征樹は充分理解して、誠実に行動した。それに対して、あたふたと隠れた不誠実者は何処のドイツだ?」
好きな者に対して臆病になってしまうは、解らない事ではない。
特に凄く親しいというわけでもない相手なら、尚更だ。
それでも鈴村は、あそこで隠れるべきではなかった。
「では・・・どうすれば良かったと?」
「知るか。」
「キルシェ~。」
小さな女性に縋りつく男装の女性。
なんともシュールな絵面だ。
「・・・今度はオマエから謝りにでも行け。」
段々と相手をするのに面倒さを感じてきたキルシェは、簡潔に結論だけを述べる。
「そ、そうか・・・いや、だが、さっきキルシェは言っていたな・・・。」
「ん?」
鈴村が急に深刻な表情で考え込む。
「謝るより礼を、礼より愛情の言葉を・・・いや、征樹様への愛情は溢れる程あるぞ?だが、一言で言い表すとなると、これがなかなか・・・やはりストレートに・・・その方がいいだろうか?」
「普通に謝って来イッ!!」