第C&Ⅵ十Ⅳ話:たかだかDEガタガタ。
「前にも言ったと思ったのだが・・・。」
呆れは既に通り越して・・・。
「この部屋は、懺悔部屋でも日常の愚痴を述べる場でもない。」
「そんな事は解っている!」
やれやれと溜め息をついているのは、キルシェ。
ということは、反論の声を上げたのは当然ながら鈴村である。
「・・・ならば、何故"二日続けて"この部屋に来るのか、説明を願いたいものだな。」
鈴村の場合は、ウザくて敵わない。
部屋に来て、すぐさま話を切り出すというのならばまだしも、梅雨の曇り空の如くジメジメした状態で佇み続けるからだ。
この説明というのは、キルシェの中では懺悔や愚痴の類いを述べる事も含まれいる。
「それは・・・。」
鈴村が口を開こうとしたまさにその時、彼女達のいる部屋の扉をノックする音が・・・。
「すみません。ここに鈴村さんがいると聞いて・・・。」
(この声は・・・。)
扉の向こうから聞こえてきた声に、キルシェは心当たりがある。
心当たりの段階なので、確実とは言えないが、目の前にいた鈴村が急にあたふたとしだしたところを見ると、それはほぼ正解だろうと確信する。
「・・・で、何をしている?」
「ど、何処か隠れる所を・・・。」
「何故、隠れる・・・大人気ない。」
小学生レベルだ。
だが、これで原因にも確信が持てた。
大体において、常に冷静であろう努め実行出来る鈴村が、途端にグズグズ、もしくはメロメロになる事など、"彼"相手以外にない。
「あぁ、入って構わんぞ。」
鈴村に一切の確認を取る事なく、キルシェはあっさりと入室を許可する。
彼女の気分を一言で表すとしたら、"知ったことか"。
「失礼しま・・・あれ?キルシェ?鈴村さんは?」
入って来た人物は、キルシェの心当たり通りの征樹だった。
「鈴村なら・・・。」
はたと部屋を見回すと、鈴村の姿が部屋の何処にも見当たらない。
この短時間のうちに、一体何処に隠れたというのだろう?
(・・・本当に隠れたのか・・・あの馬鹿者は・・・。)
もはや大人気ないのではなく、子供だな、奴はとキルシェは自分の認識を(征樹が関わる時の例外として)改める事にして・・・。
「先程までいたのだがな。それより征樹、オマエこそどうした?奴に何か用か?」
用が無ければ、このような場所に征樹は来ないだろう。
そんな事はキルシェにも解っている。
だから、大事なのはその内容だ。
「うん、鈴村さんに"も”謝りに。」
困り果てた顔で征樹は苦笑する。
「ほぅ、何か粗相でもしたかのか?私はてっきり粗相されたとばかり・・・。」
「え?」
「あ、いや、なんでもない。しかし、わざわざ直接謝りに来たのか?無論、謝意を伝えるというのが悪いという事ではないぞ。」
寧ろ、何処かに隠れている誰かさんよりは、大分清々しいというか、素直だとキルシェは思う。
「う~ん・・・まぁ・・・うん、ちゃんと自分の口で直接言いに来た方がいいかなって。」
征樹と鈴村が会って、その際に何かあったのは昨日の事だが、それでも翌日に謝りに来るというのは、十二分に誠実な部類に入るだろう。
「一体、何があったのやらだ。折角来たのだ、茶でも飲んでいくか?」
そして、あわよくば原因を聞きだそうという魂胆。
「でも、鈴村さんを探さないと・・・。」
(その鈴村さんとやらは、いくら探しても無駄なのだがな。)
出入り口は、征樹の入って来た扉と・・・あとは机の向こう側の壁にある窓くらいなものだ。
きっとまだこの部屋内の何処かにいるだろう。
「大丈夫だ。しばらくしたら一緒に探すか呼んでやろう。それとも私と一緒の茶は嫌か?」
こう問われたら、誠実である征樹が否を述べるはずがないと・・・。