第C&Ⅵ十Ⅱ話:信頼が伝わる条件。
今まで二人でこの家で暮らしてきて、ドキドキする事は何度もあった。
そして気まずいと思う事も。
現在は後者である。
先程まで皆がいたのだから、尚更だった。
(制服か・・・。)
静流は、自分が今、着ている物に視線を落とす。
征樹はあれから無言のまま居間のソファーに座っていた。
その姿を見て、そしてまた自分の制服を見る。
「やっぱり制服を着られて良かったかも知れないわ。」
「え?」
自分の方が年上。
制服を見て(ある意味現実を見て)静流は意を決して自分から声をかけ、征樹の横に腰掛ける。
「こうしていると、征樹くんと同級生気分を味わえるから。なぁんて、ちょっと無理があるかしらね。」
「え、あ、いや・・・。」
確かに年齢的にはアレかも知れないが、特に似合っていないという程でもないと征樹は思うのだが、それにはあと少しのところで声にならない。
「でも、私も一緒の学生生活を送ってみたかったな。杏奈ちゃんや奏ちゃんみたいに。」
そうしたら、もっと容易に近い距離へと飛び込んで行けたかも。
少なくとも、好意というものを今より出せただろう。
大人になると失敗の恐怖が増すのだ。
そして、立ち直るにも時間がかかる。
故に・・・。
「羨ましいな・・・。」
要約して帰結するとそうなる。
或いは、嫉妬とも言う。
「・・・ごめんなさい。」
長々と皆が帰ってからずっと何を言おうと考えいた征樹だったが、結局、思いついた第一声はコレだった。
「?どうして?」
征樹の言葉に静流は首を傾げる。それが何を指しているか見当がつかなかったからだ。
「最後は僕が決める事だけど、静流さんに相談・・・最低でも報告するべきだったんだって・・・。」
自分が一人で生活をしていた頃と、これじゃあ何も変わらない。
「琴音さんと瀬戸さんが言うまで、僕は何も気づかなかった。」
どちらかというと気づかなかったという事実のダメージの方が大きい。
「僕の今の保護者は静流さんなのに・・・。」
出だしは自分が頼んだ事ではなかった。
しかし、これではあんまりだ・・・と。
「それは、私を頼りないから・・・。」
対して静流は、自分の信用度の低さが原因だと指摘する。
「違う・・・そうじゃなくて・・・。」
征樹にとってはこういった感情を吐露する事は、以前の生活にはなかった事なのは言うまでもない。
第一相手がいない。
瀬戸の場合は、なるべく対等に近く扱ってくれたからだ。
無論、それも征樹は感謝している。
「・・・いてくれるんだなって・・・静流さん・・・うぅん、静流さんだけじゃなくて・・・僕の周りには。一人じゃない、話を聞いてくれる、助けてくれる。楽しい事も、辛い事も。」
それを蔑ろにしようとした。
静流はこんなにも自分を心配して、文字通り一緒にいてくれるのに・・・それを征樹は詫びた。
「静流さん?」
隣合った肩と肩が触れ合う。じんわりと伝わる互いの体温。
「一人じゃないって、いいわね。」
征樹の詫びに大して、応えるわけでなく、肯定を以ってでも否定を以ってでもない。
答えの全ては、温もりのみ・・・。
「うん・・・。」
征樹は静流の行動を受け入れる。
「何か・・・変な感じだ。静流さん、制服だし。」
見慣れない制服姿の静流に、征樹はふと学生時代の彼女はどんなだっただろうと考える。
「あ、あんまりじろじろ見ないでね。」
折角、いい雰囲気だったのに、これでは台無しだ。
「静流さんと一緒の学生生活かぁ・・・ちょっと興味ある・・・かな。」
実際のところ、静流の高校時代は勉学で埋め尽くされていて、面白味のカケラもないものだった。
前回の海水浴や旅行などした事もない。
あるとしたら、勉強合宿とボランティア活動くらいのもの。
「今年の夏の思い出の方が断然素敵よ。」
そう言って静流は温もりを求めて、より一層接地面積を広げるのだった。