第C&Ⅵ十Ⅰ話:謝意のススメ。
ぞくに言う恋と愛、ついでに言えば憧れは違う。
全く以って別物といっていい。
どう違うかというのは、単語の意味と違って千差万別、十人十色であるから、一概にこうとは言い切れないだろう。
言い切れないモノではあるが、人は生きてくうちに自分の中でその差、違いがなんとなく解ってくる。
それは何もこの事例だけではなく、人生においての全てに適用されてゆくものでもある。
(けど、まァ・・・。)
瀬戸は呆けながら、先程までいた部屋の一室の方に未練がましく視線を向けている鈴村を見る。
自分が好意を持っている人間とから、強制的に引き離されたのだから、がっくりと項垂れたくなるのも解らなくないが・・・。
「見事に明暗がくっきりと現れたわねェ。」
明暗というのは、鈴村とそれ以外の女性陣との間にだ。
「アンタ達の方が、何万倍も征樹ちゃんのコトを考えているわ。偉いよ。」
鈴村に対する視線とうって変わって、彼女達を見る眼差しは非常に優しいものだった。
「瀬戸さん程ではないですわ~。」
代表して琴音が答える。
これでも瀬戸は、彼女達の誰よりも前に征樹と会っているのだ。
「私はただの近くにいた大人。たまたまあのコの近くにいた、ね。」
自分は保護者ではない。
そんな役割に非常に近くはあったが、決して自分から歩み寄ったりはしなかった。
御用聞きじゃあるまいし。
それは他の誰かの役目だ。
「そりゃ、相談されたら話しも聞くし、アドバイスだってするさ。けどね、決めるのはあのコで、後悔するのもあのコだ。」
冷たいようにも聞こえるが、それは人生を先行く先輩、先達者としては正しい姿勢だ。
「私は・・・ただ葵くんが・・・寂しくなくなって、笑ってくれれば・・・。」
例え自分を見てくれなかったとしても、それは辛い事だが、後悔はしないと奏は思う。
「征樹は無愛想だもんなぁ・・・でも、昔と今だったら、今の方が"もっと"いいかな。」
一緒にいて楽しいと思える、笑い合える、泣ける。
それが共に出来る距離にいれられるのは正義と杏奈は考える。
「自分の幸せを考えながら、他人の幸せを祈れる、考えられるってのは、なかなか難しいもんなんだよ。その証拠にこの馬鹿を見な。」
苦笑しながら意気消沈する鈴村を、見世物小屋の人寄せパンダのように扱う瀬戸。
「でも、今日の事で、あのコはもっと自分と周りの距離を考えられるだろうね。周りにいて支えてくれる人間達を蔑ろにしてまで、やりたい事を押し進める事はしてはいけないって認識出来てりゃ上等だよ。あとは・・・。」
「ちゃんと静流さんに"ごめんなさい"出来るかしら~。」
その為に琴音は征樹と静流を二人にしようと試み、杏奈と奏もそれに同調したのだ。
「アンタ達にもね。それまでいって合格かねェ。」
それに対して鈴村は、そんな事も解らず、しかも帰る事にまで難色を示した。
まだまだというのは、そういう意味だ。
「あの征樹のコトだからなぁ~。手料理とかで手を打ちそう。」
「私、手料理でいいかも・・・。」
「あら~、夏の終わりなんだし、花火とかどうかしら~。」
「それ、ナイスアイディア。」
三人は当然、自分達にも何か一言あるだろうと勝手に盛り上がり始める。
「なんだい、やっぱり皆、イイオンナじゃないか。」
その様子を見て、次は自分も参加してみようかと瀬戸は脳内で検討しつつ・・・。
「アンタにあのコ達の爪の垢でも飲ませてやりたいよ、ホント。」
ようやく現状を理解しつつある鈴村に向かって、溜め息をつく。
ほんの数時間前に邪魔するなと言ったばかり・・・そこには、征樹の成長といった意味も含まれているというのに・・・。
「この大馬鹿者。」