第C&Ⅵx十話:最たる事とすべき選択。
「しっかし、面白い事をしてるわねェ、アンタ達。」
じっくりと制服組を見て、特に怒るでもなく"面白い事"と言い切る瀬戸。
本当にそれ以外は何とも思ってないようだ。
「え~と・・・瀬戸さんは・・・?」
何をしに来たのだろう?
瀬戸が許可無く上がり込んで来る事には、征樹にとっては大した問題ではない。
瀬戸にしても、この家は勝手知ったるというところなのだ。
「あぁ、ご要望の学校のパンフレットを持って来たのヨ。」
ひらひらと封筒を眼前で振る。
ここでようやく鈴村が持って来た"追加"の意味が判明する。
「はい、どうぞ。」
用件をさっさと済ませるべく瀬戸は持っている封筒を・・・静流へと渡す。
「私?!」
驚いたのは静流の方だ。
征樹の為に用意されたモノを自分に渡されたのだから無理もない。
「そうよ?私、何か間違ってる?」
「い、いえ。ぜ~んぜんっ、間違ってないのですわ~。」
「琴音さん?」
間違っているのかと確認する瀬戸。
間違っていないとはっきり断言する琴音。
「そうよねェ。」
「えぇ、征樹ちゃんの保護者は静流さんですから~。」
確かに今の征樹の保護者は、静流である。
彼の親から正式に文章で頼まれたのだから。
これは揺ぎ無い事実だ。
「それは・・・。」
彼女達の言う通りなのだが、果たして静流は自分が保護者として足り得ているのだろうかと不安になる。
征樹が進路の事を気にしだした事は知ってはいた。
しかし、資料請求するくらいに事が進んでいるとは思っていなかったし、聞いた事も無かった。
無論、静流だって征樹が望めば、そういった資料を集めるのだって、吝かではない。
寧ろ、嬉々として揃えてやっただろう。
もはや彼への愛情は、とどまる事を知らない状態へと突入していると言っても良い。
「そう・・・ですね。静流さんに渡しておいて下さい。」
「征樹くん?」
不安になりつつも、視線を征樹に向けると征樹からそういう返事が返ってくる。
「・・・いいの?」
何がいいというのか全く解らない発言が、現状の空気に浮く。
「鈴村さんも、静流さんに。」
静流の確認の問いに良いと悪いとも言わず、征樹は淡々と俯いたまま言葉を発する。
「後でちゃんと見ますから。」
「そぉ、それじゃあ、はい。」
征樹の様子を気にする事なく二つ返事で征樹は手に持っていたパンフレットを静流に渡す。
「ほら、アンタも。」
「言われなくても解ってる!」
よっぽど瀬戸に指図されるのが嫌だったのか、鈴村は声を荒げると、やはり瀬戸がしたようにその手に持っていたものを静流へと手渡す。
「さぁ~てと、用事は終わったから帰るわよォ。征樹ちゃんはまた後でネ。」
「え?」
瀬戸は手に持ったモノがなくなり、さっぱりとした様子で、ぐぃっと鈴村の背中を押す。
驚いたのは鈴村の方だ。
自分はまだ帰るとは一言も帰るとは言っていない。
「なに?もうパンフレット渡したんだから、用事は済んだわよねェ?」
語尾が微妙な強さを持っているような気もする。
「あら、じゃあ、私達も帰ろうかしら~。ねぇ~、杏奈ちゃん、奏ちゃん?」
琴音も二人に帰宅の同意を求める。
「そ、そうですね。ね、先輩、ついでにアタシ達この制服で外、歩いてみません?」
「外?・・・・・・いい、カモ。」
「あ~、なら私もこれで外へ行こうかしら~。」
「そ、それは・・・。
一見、和気藹々の様相を見せる二人だったが、それは征樹の微妙な心情の変化を感じ取れるようになったからこそである。
(それに対して・・・コッチはまァ・・・。)
どう見ても名残り惜しそうな熱い視線を征樹に向けている鈴村に瀬戸は呆れる。
「まだまだまだだわ・・・。」