第C&Ⅴ十Ⅸ話:制服娘とスーツ娘。
心臓の音が聞こえる。
それもかなり早い。
下手をしたから口から出るかも。
そんな馬鹿な事を考え、玄関を上がり、居間に通じているであろう扉を開く。
その間、色々な想像や予想をしていたが・・・。
「いらっしゃい。」
自分を迎え入れてくれた征樹の声が右から左へと抜けていく程の衝撃的な光景がそこにはあった。
四人の制服姿の女性達。
「い、一体、何をやってるんですかっ、アナタ達はっっ!!」
見知った顔に対して、声を荒げてしまう。
二人の少女は元々学生だから、制服なのは容認出来たのだが・・・。
「あら~、鈴村さん。何って、何に見えます~?」
残る二人の制服姿に鈴村は唖然としていた。
「先に聞いたのはこちらだ!」
「ん~と、こういう・・・プレイ?」
「ぷっ、ぷれっ。」
一瞬にして顔を赤らめ仰け反る鈴村に対して、琴音の表情は全く変わらない。
「そぉ~、学生時代を体感するプレイかしら~。」
その発言に更に赤面する鈴村。
回答に対する自分の考えとの違いの度合いに対しての赤面だった。
(ばっ、馬鹿にして・・・。)
どうも、この琴音という人物は読めない。
しかし、鈴村にとって瀬戸のように天敵に類する人間という事だけは解った。
「ところで、今日は何の用ですか?」
征樹は既に制服に関する一切の事を無視して、話を進めようと試みる。
征樹の言う通り、今まで一度も征樹の自宅に来た事がない鈴村が、わざわざ来るというのだから、何かしらの用事があっての事だと容易に考えられた。
「パンフレットの追加をお持ちしたのですが・・・。」
「パンフレット?」
「?」
・・・微妙に噛み合っていない空気。
「・・・・・・瀬戸は来てませんか?」
「瀬戸さん?来て・・・ないはず?」
自分のいない間に来た可能性もあるので、後半の発言は、静流を筆頭に全員に向けられた。
だが、皆そんな事はないという反応だった。
「みたいです。」
「そうですか。」
一体、アイツは何をやっているのだ!と内心思った鈴村だったが、そもそもそんな急ぎの話ではないのだ。
わざわざ直接瀬戸が出向かなくても、征樹が瀬戸の所へ手伝いに来た時に渡せばいいという事に気づく。
(少々、勇み足だったか・・・。)
それもこれも、焚き付けたキルシェのせいだ、と今度はキルシェに無理矢理に責任転嫁する。
「何か手違いがあったみたいね。」
もはや着替える事を諦めた静流が、一足早く状況をまとめる。
「あらあらあら~。折角来たのにねぇ。ん~、じゃあ、あなたもプレイに参加してみるかしら~?」
(琴姉ぇ・・・。)
この人は・・・征樹はぐぅの音も出ない。
突き抜けたという意味で、芯の強い琴音である。
「私が・・・・・・?」
「そぅ。」
自分が、あの制服を?
征樹様の前で・・・?
鈴村は、琴音と静流が着ている対照的な制服を交互に見比べる。
それは時間にして、ほんの数秒。
「だ、誰がそんな服を着ますかっ!」
惜しい。
非常に惜しかった。
琴音にキルシェのような上手い突っ込みスキルがあれば、鈴村も制服を着ていたかも知れない。
「あらあら残念。」
一体どこまでが本当なのか、いつも通り甚だ疑問である。
「全く騒がしいコだね、アンタは。」
「あ・・・瀬戸さん。」
噂をすればなんとやらで、大声を上げた鈴村に対して呆れてながら瀬戸が現れたのだ。
「悪いねェ。開いていたから、勝手に上がらせてもらったわよ。」