第C&Ⅴ十Ⅷ話:皆、己のスペックと戦っている。
年甲斐もなく可愛いと言われて喜ぶ自分が現金だし、大人気ない気もする静流だったが、それ以前に制服を着てしまった時点で、そんな事は吹っ飛んでしまう。
琴音に頼まれたとはいえ、やはり早まった・・・。
征樹の褒め言葉と相殺してもいいかという考えにはならない。
「杏奈も奏先輩も憧れの制服が着られて良かったね。」
ここだ。
静流が気になっている事。
"奏と同じ制服を着ている"という事だ。
静流はどうしても、征樹に他の女性と比較される事が容認できない。
一応、夏服と冬服の違いはあるのだが、それでも居た堪れなくなる。
女性なら誰でも理解出来るだろう。
たとえ自分のスタイルが、決して悪い方ではないと解っていても・・・。
(それにしても・・・。)
一人滅入っている静流を横目に眺めているのは奏だ。
(同じ制服なのに・・・神様、不公平・・・。)
水着の時も同じような事があった気がするが、奏も静流同様、自分のスタイルと相手を見比べていた。
特に凝視しているのは、とある一点。
(・・・やっぱり男の子はああいうのが・・・。)
夏服という事で一際装甲(?)が薄くなり、軽快になったその姿、とりあわけ盛り上がり、主張に主張を重ねた場所の容量には未だ完敗だった。
「にしたって、不公平・・・。」
「ん?先輩?」
「あ、ん?!いえ、なんでも・・・。」
無いもの強請りは良くない、うん。
と、自分でも良く解らない励ましを胸に・・・。
-ピーンポーン-
突然に鳴るインターフォンに皆が一様に顔を見合わせる。
普段、征樹の家に入り浸っている面子は今ここに全員いる。
そして、四人共この家に訪問者など皆無なのは知っている。
「はい。」
一人だけ戸惑う事なく当然のように動いたのは征樹だ。
室内の通話機を取って対応している。
「え?あ、それはわざわざ。えぇ、聞いてますから、どうぞ。」
「ちょっ、どうぞって?!」
訪問者を家の中に入れるような征樹の発言に杏奈は声を上げる。
「え?」
「この格好!」
制服姿の四人。
杏奈と奏は、なんとか年相応に見えるが、問題は他の二人だ。
「あ・・・。」
何の考えもなく対応をした征樹自身も杏奈に指摘されて、ようやく気づいたようだ。
「普通に似合ってたから、つい・・・。」
「ついじゃない!うわぁぁぁ~、どうしようっ。」
「お、落ち着いて杏奈ちゃん、こういう時は深呼吸です。ほら、ひっひっふぅって!」
「それは違うわねぇ~。」
寧ろ、何を出すつもりだ。
落ち着くのはオマエだ。
そんな視線が突き刺さる。
「とにかく、向こうの部屋で着替えまっ・・・。」
冷静の意味合いが違う琴音とは別に、ちゃんと冷静な静流はとりあえず現在の居間から一番近い隣の和室に琴音を始め、征樹以外の皆を誘導しようとするのだが・・・。
一足遅かったようである。
ガチャリと玄関から続く廊下から居間の扉のノブが回って、今まさに開かれる。
「お邪魔しまっ・・・・・・え゛?」
入って来た人物が、自分達を認識して固まる中、静流は一人天を仰いだ。
こんな時ばかりは、琴音のあの何事にも動じないマイペースが羨ましいを通り越して憎かった。
「いらっしゃい。」
そう一人普段と変わらないのは、征樹だけだった。