第C&Ⅴ十Ⅵ話:成長期×成長期=進化?
勿論、賢い征樹と読者諸君は、このパターンのオチを予測出来ないわけではないだろう。
正直なところ、水着を買いに行く時と大差ない。
「ただいま。」
それでもこれから起こるであろう事に努めて冷静に対処しようというところが征樹らしい。
・・・無駄な努力・徒労なのだが。
「おかえりなさ~い。」
玄関先で見た杏奈と全く同一のデザイン。
ブレザーこそなかったが、それを着用した琴音がいた。
こっちの方が本当の意味で、コスプレだ。
「杏奈ちゃんの制服姿を見てたら、私も着てみたくなっちゃって~。着ちゃったの~。」
てへっ♪と舌をのぞかせる琴音を前にして、時間凍結したままの征樹。
(段々、家に帰るのが恐くなりそう・・・。)
帰宅恐怖症という単語が脳裏に過ぎる。
普通、このくらいの年齢の男の子なら、ウキウキと楽しそうに帰りそうなシュチュエーションだが、征樹は平穏の方を重要視するらしい。
「似合うかしら~?」
似合っていたら、いたで問題があるような・・・。
「か、可愛いとは思います。」
「ん~。」
「何か?」
「うん、それくらいで満足してア・ゲ・ル・♪」
征樹の無難過ぎる感想は、琴音にとってどうやら今ひとつだったらしい。
「褒められて良かったですね。」
「ありがと~。でも、シャツだけは新しくしたの~。前のだとボタン留められなくて~。」
新品を買ったという白いシャツも、胸の所は相当苦しそうに見える。
ぐんっと持ち上げられて、パツパツ、今にも呼吸困難になりそうな。
「・・・・・・育ったんデスか・・・。」
はちきれんばかりの胸をジト目で凝視する杏奈の姿は、大分はしたない。
しかし、どうにもこうにも主張し過ぎている胸に目がいってしまうのは、杏奈が女性だったとしても仕方が無いとも言える。
「昔はちっちゃかったのよぉ?Bくらい?」
そう言われれば、杏奈の身体はきちんとブレザーの中に納まっている。
シャツの上から着るブレザーに、多少の余裕があったとしてもだ。
「Bィッ?!」
「?」
杏奈の驚愕の叫びに征樹はピンとこない。
そもそもBというのがどれくらいのサイズで、今の琴音とどれくらいの差異があるのかを解ってないので無理もない。
とりあえず、育ったという事だけを理解。
征樹自身、特に拘りも興味もないが。
「成長期だったのねぇ~?」
何故に疑問系?と、誰もが突っ込みたくなる。
「成長期って・・・成長し過ぎのような・・・。」
杏奈と同様に驚きの色を隠せない奏。
そして、やっぱりピンときていない征樹。
「というより、突然変異よっっ。」
(成長じゃなくて進化なのか・・・。)
進化という単語の響きで、ようやく凄い事なんだとは思う事が出来たようである。
「ち、ちなみに今は、ど、どれくらいなんですか?」
何故かゴクリと唾を飲み問いかける奏。
まだ胸の話を続けるのかと、征樹は飽き気味・・・というより、呆れている。
一体、彼の興味をひく話題はなんなのだろう。
「知りた~い?」
にっこりと笑う琴音の視線が、自分に向けられている事に征樹は気づいたが、それに対してどう答えたらいいのか解らず無言を通す。
大体、知りたいと言えば杏奈が何かしらうるさく言うだろうし、知りたくないと言えば琴音はノリノリで話始めるだろう。
この場合は無言。
きっとこれが正解にもっとも近い。
「んふふ~♪」
琴音だけが一人楽しそうだ。
だからこそ、逆にどう答えたらいいのか考えてしまう一端でもある。
「えぇとねぇ~。」
微笑んだまま琴音の指が、一本、二本と折り曲げられてゆく。
「も、もういいです!」
征樹の前で折り曲げられた指が4本を越え、5本目に入り止る事の無い気配に慌てて杏奈が止めに入る。
どうやっても越えられない壁に当たっただけで、もう充分だと言わんばかりの勢いで。
「そぉ?」
「はい・・・もう大丈夫です。」
はぁっと溜め息をついた杏奈と奏は、共に聞かなければ良かったと自分達の浅はかさを戒める。
「・・・で、結局、なんだったんだ?」
「征樹は気にしなくていいの!」 「そうです!ハレンチです!!」
最後まで全く理解出来ない征樹に対し、理不尽ともいえる二人の仕打ちが待っていた。
「僕が聞いたワケじゃないのに・・・。」