第C&Ⅴ十Ⅲ話:うぃんくはイイオンナのてくにっく。
「邪魔・・・だと?」
「まぁ、落ち着け。瀬戸殿とて考えがあって述べてたのだろうから。」
推測をしていただけあって、キルシェの対応は冷静だった。
完全に発言の全てを納得しているわけではないが。
「キルシェさんは大人ね?」
思った以上に冷静なキルシェに瀬戸は少々驚く。
「征樹にとって母君を除けば、瀬戸殿は自分と言う存在を無条件で受け入れてくれる人間第一号。そんな瀬戸殿が理由無くそんな言葉を吐くとは思えぬからな。そこの猪女とは違う。」
「誰が猪だ!」
猪と言われて反応出来るだけマシかと思うキルシェ。
「征樹ちゃんがアンタのススメた学校に興味を持ったの。」
「・・・オマエ。」
その言葉の意味を理解したキルシェまでもが、鈴村に冷たい視線を投げかける。
「な、何が悪い?!」
「あのな、征樹は最近ようやく周りの人間に心を開き始めた。自分の将来も考え始めたと言ってもいい。オマエの話を聞くくらいだからな。で、オマエは本当にそれが征樹の為と思ったか?どうだ?」
「それは勿論・・・。」
嘘は言っていない。
だからこそ、キルシェは余計に呆れる。
「心の何処にも、自分の手元に置いておきたい。そういう想いはなかったか?どうだ?」
心の中で、このやりとり自体が馬鹿らしいと思いながら、世の中には時にこういう回りくどい手続きが必要なのだと自分に言い聞かせる。
「征樹が困り果てて頼んできたのならば、それもいい。一つの意見としてな。だが、恣意的な行動で彼を導くならばエゴに近い。」
道を示すのと、道へと手を引くのは、結果的に同じになるとしても、話も意味も違う。
「・・・確かに。」
「それにな、なにより征樹の周りにいる女性達に失礼だ。」
「征樹ちゃんがアンタの言葉に耳を傾けたのは、あのコ達の頑張りがあってこそ。アンタは便乗しているに過ぎないの。さしずめ泥棒猫?」
「良かったな。猪より猫の方が可愛いぞ?」
ニヤリと微笑むキルシェは、既に精神的に完全に優位に立ったようだ。
鈴村は口をパクパクさせるだけで、ぐぅの音も出ない。
「優先順位云々は言いたくはないケド、私としてはあのコ達の努力を盛大に評価してあげたいところ。」
つまりは、これ以上不用意な発言をしてくれるなという事だ。
「と、それはいいとして瀬戸殿?」
「なにかしら?」
「こちらとしても、征樹を気に入ってるのだが、強制的や露骨でなければ、征樹を誘惑するというのはアリだろうか?」
面と向かって言う事ではないが、鈴村の反応も面白い事であるし、ここは一つ聞いて見る事にした。
「まぁ、選ぶのは征樹ちゃんだし。」
「良いのか?」
驚きの発言だが、キルシェとしても予想の範囲内だ。
面白いのは、その発言に対する鈴村の反応を見る事。
「第一、私は征樹ちゃんの母親じゃないもの。母親はあのコにとってたった一人、清音だけ。」
それだけは永遠の不変の現実であり、真実。
「ふむふむ。つまり、だ。」
キルシェは再びニヤリと・・・。
「征樹に選んでもらえるような、イイオンナになれというコトだ。」
結論が出たところでどうしろ言うんだと、鈴村は大声で突っ込みそうになりながら、喉まで出かかった言葉を必死に飲み込む。
「と、仕返しはこれくらいにしてと・・・。」
仕返し、瀬戸に仕返しされるような覚えが無い鈴村。
あるすれば、前回言って物凄く後悔したアレしかない。
「し、仕返しの為だけに来たのか!」
大人気ないにも程がある。
「なワケないでしょ。そんなのはオマケよ、オマケ。本題は・・・学校案内をもらいに。あるんでしょう?」
「え?」
「最終的に選ぶのは征樹ちゃん。で、手助けをするのは私達。OK?」
瀬戸のウィンクは強烈だったとだけ言っておこう。