第ⅩⅤ話:何から何まで紙一重の深夜。
しばらくはもぞもぞと動いていた征樹が寝息をたて始めたのを確認して、静流はほっと息をついた。
夜中に喉が渇いて居間に行くと寝ている征樹が見えて、それをなんとなく眺めていたらさっき言ったような状況になって、慌てて彼の名を呼んで叩き起こしたのだが。
そうしたら、今度は征樹が無理矢理笑おうと試みて、次の瞬間には頭に血が上っていた。
一つだけわかった事があったから。
きっとほんとんど全部がそうだったのだとわかったから、今日一日の自分に向けられた笑顔は"作り笑い"なんだという事に。
そして最後には悲しくなった。
全く忙しいと思うが、そんな風にしか笑えなくしたのは周りにいる大人達なのだ。
歪に、けれど歪と思わせない様に型にはめて塗りつぶしたのは。
(この子には、保護者が必要なのよ。)
それも今までの分を甘やかしてくれる、補填してくれるそんな大人が。
でも、彼にはそのような存在は今はいない。
居たのなら、今のようにはなってはいまい。
静流は半ば使命感にも近いモノを持ち始めていた。
これは今、自分にしか出来ないコトなんだという。
「ん・・・。」
もそりと自分の腕の中で征樹が動く。
「んふふ、温かいわね。」
征樹の温もりが心地よい。
顔を覗いて表情を見てみる。
彼の顔には涙の痕が乾いて、張り付いたような線が残っていた。
ふと、特に理由もなく、深く考えずにペロリと涙の痕を舌で舐めてみる。
「あはっ、しょっぱい。」
当然なコトを呟いて、あどけない顔の征樹を見る。
眠っている少年は、実年齢以上に幼く見えた。
泣いている姿を見てしまったからだろうか。
舌に残った涙のしょっぱさと頬の柔らかさ・・・。
「んっ。」
ゆっくりと彼の頬に唇をつけていた。
ちょっぴりだけ啄ばむように。
感じた通りの柔らかさ。
「・・・・・・もうちょっと良いわよね?」
誰に許可を取るでもなく、もう一度頬に。
「・・・もっかい。」
二度、三度。
「も少し・・・。」
しているうちに段々と楽しくなってしまって、思わず征樹を抱きしめる腕に力が入る。
すると、先程よりも二人の距離が近づいて間にある空間が減ったせいか、もっと温かい。
それに更に気分を良くして、再び征樹の頬にくちづけする。
(やっぱり柔らかい。)
頬でこれだけ柔らかいのだから・・・。
静流の視界にすやすやと寝息をたてる征樹の唇が入る。
「ここは、もっと柔らかい・・・わよね。」
ゴクリと喉を鳴らす。
自分でも下品だとは思う。
が、どんどん距離は縮まっている。
何だか止められそうにない、引力を感じる。
ぷにっと音がした様な気がした。
想像以上の柔らかさ。
「キス・・・しちゃったわよ、征樹君。」
試しにそう口に出してみると、何とも言えないゾクゾクしたモノが背に走る。
自然とニヤリと表情が緩む。
「んんっ。」
(やっぱり柔らかくて気持ちいい・・・。)
「んっ、征樹・・・。」
"君"を外して呼び捨てにすると、もっとゾクリとした。
あどけない少年、しかも安心して無防備に寝入っている。
そんな意識のない状態でキスをする。
奪っているという感触。
そして、その感覚の甘さに静流の脳は痺れたまま支配されていた。
そういえば、今自分に温もりを伝えている少年の身体も、思っていたよりは硬くなく柔らかい気がする。
もう少しくっついて感じてみたい欲求に駆られた。
「大丈夫、大丈夫。」
思考して口に出すという作業はもうしてはいなかった。
ぐっと抱きしめてみると、自分の胸が少し押される。
(そう言えば、今、ブラしてない・・・。)
布一枚越しの感触。
温かさが少しだけ熱さに変わった気がした。
「いいカモ・・・。」
密着した状態でくちづけすると、もう脳ミソどころか身体もふわふわしてきた・・・。
「・・・クセになりそう・・・。」
静流の身体は既により多くの接触面積を求めて動いていたのだった。