第C&Ⅳ十Ⅳ話:進むべき道。
(進路・・・。)
制服に関する大論争(?)が終息したのも束の間、征樹はふと・・・。
「杏奈はもう目標とか、あるの?」
普通ならば同学年の友人数人で話すような内容も、征樹にしてみれば杏奈くらいしかいない。
最近の征樹は、以前より取っ付き易くなっていて、クラスメイトと会話する機会が増えてははいるが、未だにこういう話を出来る相手はいない。
「ふっ、アタシの場合、選ぶような立場にないの、これが。」
勝ち誇ったかのように胸を張る杏奈。
「・・・聞いた僕がバカだった・・・。」
頑張っても中の下程度の成績を残している杏奈には、仕方のない話だ。
「ん~、でも、多少こんなカンジがいいなぁってのはあるかな、制服とか?」
「それはもういいって・・・。」
杏奈の制服談義対して征樹は、呆れるという領域を既に通り越している。
「征樹くんは・・・あるのかしら?」
「僕?」
遅々として進む気配のない会話に思わず静流が口を出す。
なんの事はない、静流自身も鈴村の言葉が気になっているのだ。
たとえ、それが叱咤・激励の類いであると理解していても、だ。
「そう。ないのかしら?」
「僕は・・・。」
小さくう~んと唸る征樹の仕草、その一挙手一投足をその場にいた皆が見つめる。
「特にこれといった夢があるわけじゃないから・・・。」
「から?」
夢がないからといって、人生が終わるわけではない。
「そういうのを自分に合ったペースで見つけられそうな学校がいいかな。」
大学全入学世代に突入かと言われる現代では、流石に低学歴というわけにはいかないだろうという事は、征樹にも解る。
という事は選択肢は、"進学"という事になるのだが・・・。
「いいですねー、選べる学校があるヒトはー。」
棒読みにも程がある。
ちなみに征樹の成績は、上の中くらいだ。
足を引っ張っているのは、以前も苦戦した歴史系。
そこもきちんとやれば、もっと上位を狙える位置。
・・・その気力が本人にあればだが。
「どうだろう・・・僕には、なんていうか、偏差値とかで選ぶってのはない気がする。」
そういう基準も目安としては必要なのは理解している征樹だが、それだけで選んで果たして自分が適応していけるのかと考えると、甚だ不安だ。
「そう考えると、鈴村さんが紹介してくれた学校へ行くのもアリかなぁって。」
また"鈴村"。
琴音を除く三人は、声に出さずとも同じようなフレーズが脳裏を過ぎる。
「"あの人"が紹介した学校って?」
それはそれで興味がある。
「瀬戸さんの所に来てるお客さんが理事をしている学校で・・・多国籍のパブリックスクールみたいなもん?」
何故疑問形なのかは別として・・・。
「瀬戸さんの知り合い?」
「うん、竜木っていう人なんだけれど。」
瀬戸はあれでも日々征樹の事を心配して、気を配っている。
恐らく征樹に関しては、一番信用出来る人物だろう。
その瀬戸が何も言わず、征樹の好きにさせているのならば、特に害がないという事に違いない。
「征樹くん、今度、私にも紹介してくれないかしら?その竜木という方を。」
「え?一応、聞いてはみますけど・・・。」
それとこれとは別。
瀬戸が征樹を気にかけているように、静流だって征樹を心配する気持ちは負けていないのだ。
「お願いね。」
「うふふ。」
「な、なんですか?」
急に笑みをこぼす琴音に静流が後ずさる。
「いえいえ~。静流さん、お母さんしてるな~って。ん~、お母さんってトシじゃないから、お姉さんかしら~?」
非常に楽しそうな微笑みである。
「わ、私は、征樹くんの"保護者代わり"ですからっ。」
「うん、そうねぇ~。」
「もう、琴音さんっ。」
「なぁに~?」
終始にこにこしたまま非常に満足げな琴音に、静流は赤面して声を上げるくらいしか出来ず、結局この話自体もぐだぐだのまま、墓参りは終わるのだった。




