第C&Ⅳ十Ⅲ話:インテイリと制服。
(まさか・・・征樹くんまで・・・。)
いつしか場には皆が制服を着る空気が流れ始めている。
その流れの原因になったであろう征樹には、特に自覚はない。
というよりあっては困る。
(・・・征樹くん、見たいのかしら・・・。)
それならば、と一瞬何かの覚悟を決めそうになる・・・。
そもそも何故、こんな事に?と静流は首を傾げざるを得ない。
最初は奏の志望校だったはずだ。
「そういえば奏さんは、お父さんの言う学校一つしか受験しないの?」
(逃げた。) (逃げたな。)
そんな視線を浴びせかけられながらも、静流は踏ん張る。
「ちゃんと自分で選んだヤツも受けなくちゃ。」
「確かに。」
本来なら、そっちの方が重要だ。
「あ・・・挑戦してみたい学校は、あり・・・ます。」
先程までとはうって変わって、沈痛な面持ちの奏。
「選べる選択肢があるだけマシだよねぇ。」
杏奈が言いたい事は、学力や資産があれば選択肢の幅が広がるという意味である。
「杏奈。」
「何さ?」
「それを言うと悲しくなるからヤメてくれ。」
「だよね。」
杏奈が放った言葉は、杏奈自身だけでなく征樹自身にもダメージを与える。
(征樹くんは、父親が弁護士なんだから学費の事は気にする必要はないのに、あのダメ親父!)
最近、征樹との暮らしが楽しくて忘れていたが、静流の征樹の父への怒りが再燃し始める。
「で、今度は何処のお嬢様学校でーすーかー?」
完璧に脱力、絶望が詰め込まれている。
「え、えと・・・。」
ごにょごにょと口ごもる奏。
当然、皆の視線は彼女の口元へ・・・。
「え?何?聞こえなーい。」
(オマエはイジメっ子か。)
「U・・・女を・・・。」
「U女?て・・・まさか、あの?!・・・はぁ。」
「?」
相変わらず学校名では反応出来ないのは征樹だ。
「あのね、征樹。この近県でトップクラスの女子高よ。先輩がデキる女ってのは知ってたけど・・・。」
「・・・そこも制服が可愛いの?」
今までの流れから、そこの制服も可愛いのだろうかと、征樹は試しに杏奈に聞いてみる。
「いえ、どちらかというと地味かしら。色合いも、デザインも。」
征樹の疑問にすかさず答えたのは、杏奈ではなく静流だった。
「なの?」
意外な所からの返答を受け、確認の意味を込めて杏奈に聞いてみる。
「そうだけど・・・えぇと・・・静流さんて、まさか・・・。」
「恥ずかしながら・・・卒業生。」
「え゛ぇぇぇーッ!」
(世の中、狭いもんなんだな・・・。)
またまた発生する杏奈と征樹の温度差。
征樹的には、それがどれ程驚く事なのかピンときていないからだけなのだが・・・。
「あぁ・・・でも、静流さんは弁護士さんだもんね・・・。」
杏奈の顔一面に敗北感が漂っているようにも見える。
どうやら、静流の優秀さを改めて思い知ったようだ。
(そうか、それくらい高偏差値な学校なのか。)
ようやく征樹にも、その学校が難関校だという事を理解する。
「あ、あの、静流さん、良かったら今度参考書選び、一緒に行ってくれませんか?」
「え?いいけど、私が卒業したのってかなり前よ?」
「構いません、お願いします。」
「まぁ・・・構わないけど。」
奏の進路がかかっているせいか、静流も無下に断る事は出来なかった。
「良かったね、先輩。」
「はい。」
「で、静流さんの制服は?」
タイミングをずっと計っていたかのように琴音がにこにこと・・・。
「せい・・・ふく?」
「どうせなら、着比べてみない?面白そう♪」
何故、こんなに制服を着る着ないに焦点を持って行こうとするのだろうか?
単に着てみたい、着せてみたいというだけなのだろうか。
(まぁ、僕が着るわけじゃないから、いいか、うん。)
制服って・・・・・・胸キュン?(謎発言)