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貴方と背中を合わせる理由。(仮)  作者: はつい
第捌縁:送受信してみたら・・・・・・?
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第C&Ⅳ十Ⅰ話:じこけんおのおとしあな。

「はぁ・・・。」


 室内に一際大きな溜め息。


「あぁ・・・。」


 響き渡る脱力を誘う声とも言える。

それ以外に特に目立った音はしない。

溜め息が目立っているくらいだ。


「だあぁーッ!キサマ、人の仕事場に落ち込みに来るな!()ね!」


「だって・・・。」


「伊達ロールもヘチマもあるかっ。」


 この世の終わり、迷える仔羊の如く路頭に迷っていたのは、意外な事に鈴村である。


「絶対、皆さんに嫌われた・・・。」


「あ~?嫌われる事を言うからだ、大馬鹿者。」


 あぅあぅと母親に叱られた子供のゆおに呻いている鈴村に対し、尊大な振る舞いをしているのは、鈴村より遥かに小さいキルシェだ。

母と子という例えをするには、あまりにもアンバランス過ぎる。


「いや、私も征樹様と一緒にお墓参りに行きたかったもので・・・つい。」


「あーあーあー、そういうのを世間では八つ当たりというのだ。」


「私は!ただ!・・・ただ征樹様の為になるようにと・・・。」


 ガバッと勢い良く吐いたものの、それは尻すぼみに力なく消えて去ってゆく。


「と、嫌味ったらしく征樹の周りにいる女性に釘を刺してきたと。幼稚だな。」


「・・・・・・面目ない。」


(普段、冷静でしっかりしている分、一度頭に血が昇ると抑えられないタイプとは厄介な。)


 しかも、一度落ち込むと延々と落ち込むタイプでもあるので、尚更に厄介だ。

それだけ、征樹に対しては見境いないとも言える。


「まぁ、リンリンが征樹を大事に想う分には勝手だ。勝手だが、征樹達の周りにいる人間が、征樹の傍にいるのも勝手だ。リンリンにとやかく言われる筋合いも謂れもナイ。」


 仕事を続行する事を仕方なく諦め、座っていた椅子ごとくるりと鈴村に向き直る。

キルシェの一言一言が、ぐっさりと刺さり確実なダメージを受けているようで、何時もの鈴村の姿は影も形もない。

無残だ。


「まぁ、リンリンに言われたくらいで、征樹から離れるようだったら、所詮その程度だと思うが。リンリン?」


「なんだ?」


「ミットモナイ。」


「う゛・・・。」


 更に打ちひしがれるトドメを刺したキルシェは、椅子から立ち上がり、近くに据えられているコーヒーメーカーに手を伸ばす。


「コーヒー、飲むか?」


「頂きます。」


 鈴村の言葉を聞いて微笑むと、ガチャガチャと二人分のコーヒーの用意を始める。

ふわりと流れて来るコーヒーの匂い。


「第一、そんなに気になる、好きならば、名乗りを上げれば良いものを・・・。」


「そ・・・それは・・・その・・・。」


 ゴニョゴニョと口ごもるのも無理はない。

恋愛対象として初めて認識させるような発言をしたのはキルシェで、それはつい最近の事だ。

それまでは征樹と会う事もなかった。

他の者達とはスタートから出遅れた感もある。

焦りのようなものも。


「日本人はそうやって、名乗りを上げてから戦うのだろう?ほれ。」


 誤った日本人感は、わざとなのか、それとも本当にそう思っているのか。

コーヒーカップを鈴村に渡し、自分の分のそれを持ったまま再び席へと戻る。


「ふむ。コレならば私がつけ入る隙もあるというものだな。どれ、私も名乗りを上げに()くかの。」


「ぶふぅッ、げほぅっ・・・かっ・・・。」


 さらりとキルシェが漏らした言葉に、カップに口をつけいた鈴村は盛大に吹き出していた。

もう少し遅かったら、事態はもっと大変な事になったかも。


「汚いな、なんだ?」


「い、今なんて?」


「ん?リンリンがそんな情けなく無様ならば、私が、とな。」


「な、何故そういう流れに・・・?」


 そんな素振りなどなかったはず、と鈴村は瞬きを繰り返す。


「ニアも征樹をお兄さんお兄さんと言って懐いておるし、この際本当の兄になるのも吝かではないかとな。」


 ニヤリと鈴村に微笑むキルシェ。

確かに法律上、そういう関係になる方法の一つではある・・・が、お兄さんではなくお義兄さんでは、意味合いは違う。


「どんな理屈ですか、馬鹿らしい。」


「お?ようやくいつものリンリンに戻ったな?もう少し遊べるかと思ったが。」


「全く、どちらが大人気ないのだか・・・。」


 あまりに驚き過ぎたせいで、ようやく鈴村のまともな思考能力が戻って来たようだ。


「しかし、いずれにしろ、そういう存在がいつ征樹の前に現れるかわからんぞ?」


 もう現れているかも知れないがというのは、心の中だけに留めておく事にして。


「それとリンリンの言った事が、征樹の身を案じたものだと言われた方も解っているさ。」


 そう言って、キルシェはコーヒーを口にした。

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