第ⅩⅣ話:結局、彼女は最後もキレる。
「征樹!」
なんだろう?
初めて、生まれて初めてこんな風に名前を呼ばれた気がした。
誰かの強い呼びかけ。
ちょっとだけ気になって、無理矢理に目を開くと、彼女がいた。
「しず・・・る・・・さん?」
泣きそうな顔の静流。
何でそんな顔をしているのだろう?
ふと、そんな疑問だけが征樹の頭に浮かぶ。
「どうしたの?」
にっこりと征樹は微笑んだつもりだったが、顔が引きつって笑顔が作れない。
何時もなら簡単に笑えるのに、何故かおかしい。
仕方なく、もう一度・・・。
「どうしたの?静流さん?」
もう一度、同じ内容の言葉を静流に投げかけると、途端に静流は眉をつり上げた。
「征樹君、ちょっと来なさい。」
静流は強引に引き起こすと、その手をぐいぐい引っ張るので引きずられるように征樹は歩く。
途中、征樹は自分の顔が冷たい気がしていた。
(泣いてるのか・・・僕。)
ぼんやりと寝起きのせいか、酷く思考が鈍く感じる。
静流はそのまま征樹の部屋の掛け布団がめくられたままのベット前まで来ると、征樹を乱暴にベッドに突き飛ばした。
ベットに倒れ込む征樹を静流が見下ろす形。
「どうしたのじゃないわよ!それは私のセリフ。魘されてると思ったら突然泣き出すし、呼んでもなかなか起きない。起きたら起きたで泣きながら笑おうとするし、そんなんで心配しないわけないでしょう!」
一気にまくし立てると、静流は自分もベットに倒れこみ、素早く征樹の横で彼に掛け布団をかける。
「今日はここで寝る。はい、目を閉じる!もう身体もこんなに冷えちゃって!」
グダグダ言いながら、静流は征樹を抱き寄せる。
「あ、の、静流さん?」「さっさと寝ル!」
即答で有無を言わせない。
「おやすみなさい。」
そう言えば、そんなフレーズは今の暮らしになってから、言った事も言われた事もなかったと気づく。
ただ、今の征樹はひたすらダルくて、温かくて、それでいて柔らかくて・・・。
そして、眠かった。