第C&Ⅲ十Ⅵ話:比重と比率。
その日は夏にしては、少々涼しく過ごし易い気温だった。
「雨じゃなくて良かったわねぇ~。」
「確かに。」
それでも夏の日差しは強い。
大きな白い帽子を被った琴音の言葉に、同じく白い帽子を被った杏奈が同意する。
琴音は白い丸首の襟をした薄いピンクのワンピース。
杏奈は首元が空いた白いワンピースで、汗に光る鎖骨が覗いている。
「でも、やっぱり暑いわね。」
七分丈のカーキのパンツに白いブラウス姿の静流は、額の汗をしきりに拭っている。
正確には、化粧が落ちないように押しあてているのだが。
「これ以上暑くなる前に行きましょう。」
そう言って皆を促す奏は、何故か制服だった。
征樹は何故と思いつつも、突っ込まない事にしていたが、それよりも別の事が気になっていた。
静流と杏奈の服装。
杏奈のスカート姿はそれこそ制服で毎日のように見ていたが、今回の格好は非常に新鮮だった。
それはズボン姿の静流も同様に言える。
ちょっぴりいつもと違う姿。
少々見惚れてしまう。
「あ゛~、でも、あっつーいっ。」
見惚れていたのも束の間、杏奈がワンピースのスカートの裾をばっさばっさとはためかせ、少しでも空気を取り込もうとし始める。
「杏奈ちゃん、その、はしたないよ。」
同性である奏までも顔を赤らめながら、たしなめる。
「大丈夫、下にスパッツ履いてるから。」
「そういう問題じゃないような・・・。」
全く以って奏の言う通りであると、同じ事を思う征樹。
確かにはしたない。
「田舎だし、誰もいないし、見る人間なんて征樹くらいだし、問題ないない。」
その見る人間が征樹だというのが、一番の問題なのだが、杏奈は全く意に介していないようだ。
杏奈としても、折角他の女性陣が着るような服装で来たのだから、もっと見てもらいのである。
ただ、琴音と少々被ってしまったのは、杏奈が真似した側なので、仕方ないと処理するしかない。
「そんなコト言ったら、何で先輩は制服?て、ゆーか、そのバッグは何?」
よくぞ聞いた杏奈、と征樹は心の中で喝采を送る。
彼女の指摘する通り、奏は大きめのトートバックを肩からさげているのだが、お弁当が入っている琴音のバックは別として、奏のバッグの大きさ具合も中身も気になる。
まぁ、女性は往々にして様々な小物類が必需品として用意しなければならないらしいので、征樹としてはその辺りが落としどころだ。
「えと、葵くんのお母様のお墓参りだから・・・その、失礼がないようにって・・・思って。」
学生の礼服=学生服。
つまりはそういう事らしい。
では・・・。
「じゃあ、そのバッグの中身は?」
「・・・着替えです。」
休みの日まで制服なのは如何だろうかと奏自身も考えたようで、場所があれば墓参りが終了次第、着替え用としていたというわけだ。
「先輩らしい・・・。」
ぽろりと征樹の口から正直な感想がこぼれる。
だが、もう亡くなっている、しかも一度も面識のない母にこれだけ敬意(?)を払ってくれる奏の気持ちが征樹には嬉しかった。
「さぁ、途中でお花も買わなくちゃならないし、行きましょう。」
会話に一段落ついたところを見計らって、静流が征樹達を促す。
「あ、はい。」
ぞろぞろと歩き始める一行。
実は、その集団の中で、静流は一人落ち込んでいた。
理由は、言ってしまえば非常に下らないのだが・・・"一人だけ"着てくる服を外した事だ。
これだけ女性陣が多いと、他となるべく被らないようにとか、女性は色々と気を遣う。
解り易い例だと、バーゲンの服を着ていたら、向こう側から同じ服装の人間と鉢合わせしたり。
とにかく気まずくなる。
静流の中で、今回の服装の隠れたテーマは杏奈だった。
カテゴリー別をしてみると、琴音と奏は清楚、杏奈は活動的な服装だと予想して、今回の服装をチョイスしたのだが・・・。
結果、自分だけが浮く事になってしまった。
違った意味で、奏も浮いてはいるが、とにかく今回は失敗という事になる。
几帳面な静流はそれ故に落ち込むのだった。