第C&Ⅲ十Ⅴ話:ソコに在った事実を想うコト。
「お墓参り?ナニソレ?!行く行く!」
夕食を(何故か)一緒に食べた後、例の件を杏奈に話した反応はこれだった。
征樹が思っていた以上に大きな反応で、寧ろ言い出した側の方が引いたくらいだ。
「別に、特に何かあるってワケじゃないんだけど・・・。」 「行く!」
もはやダダっ子のそれに近い。
「一応、琴姉ぇがお弁当作ってくれるって。」
「尚更行く。」
(花より団子・・・。)
半ば呆れる征樹だったが、当の杏奈はウキウキだった。
確かに墓参り自体は、自分の祖父母の時のそれと流れは変わらないだろう。
しかし、それとこれは別だ。
征樹に誘われて、征樹という存在をこの世に生み出してくれた人の墓参り。
そこに感謝等の念がないはずはないし、一度は行ってみたいと思わないわけがない。
つまり、断るハズがないのだ。
「そっか、ありがとう。」
「なんで、そこでお礼かなぁ?皆で行くんでしょ?なら、楽しく行こうよ、おーっ。」
「おーっ。」
ノリノリで拳を高々と上げた杏奈と、それに同調する琴音の姿に征樹は苦笑するのだった。
「征樹くんのお母様のお墓参り?」
ハイテンションの反応とは違い、奏の反応は落ち着いていた。
電話の受話器越しだったので、その表情までは解らなかったが。
なんら変わった感じはしなかった。
変わったといえば、時折"葵くん"ではなくて、"征樹くん"と呼ぶ事くらいだろう。
征樹にとっては、どちらも大して変わらないようなので、特に突っ込むような事はない。
「琴姉ぇがピクニック代わりにお弁当を作ってくれるって言うから、墓参りの後に合流でも構わないですけど・・・。」
墓参りは退屈。
それが征樹の一貫した認識である。
最初から強制もしていない。
「うぅん、行くよ。私も・・・"会って"みたい。」
「会う?」
それを言うならば、"行く"の間違いではないだろうか?
奏がこんな事を言い間違えるとも思えないと、征樹は首を傾げる。
「行くっていうよりも、お墓参りは亡くなった人に会って、生きてる人が今を話す場所だと・・・思うから・・・。」
奏には退屈以外の認識があった。
「そういう考え方もあるのか・・・。」
「想い入れが強ければ強い程、そういうのは強くなると思うの。」
征樹の疑問に補足の説明をする奏。
「想い入れ?先輩は何かある?」
征樹の母との面識はあるわけがない。
「お母様が亡くなってからの征樹くんを知ってるよ?」
それが残された者との一番の大きな違い。
「征樹くんだって、沢山、話す事あるんじゃないかな?」
受話器越しの奏の声は、いつものオドオドしたものではなく限りなく優しい。
いつもより近くに聞こえる、響いてくる彼女の声。
「・・・・・・そうかも・・・知れない。」
奏の言いたい事はなんとなく理解できる。
今まで・・・というより、最近は色んな出来事があったから。
「楽しみにしてる。」
これで杏奈も奏も一緒に来る事になった。
そこで、ふと、征樹は一連の思いつきの発端になった鈴村を思い出す。
ニアも思い至った発端ではあったが、墓参りという案は鈴村の言葉からだ。
「一応・・・。」
置いた受話器をすぐさま取り、再び電話をかける。
だが、鈴村が電話に出る事はなかった。
「・・・まぁ、またの機会でもいいか・・・。」
別れ際にも、"また今度"という話をした事だし、いずれその機会はあるだろうという事で、一人納得する征樹。
他に瀬戸を誘うという事も考えたが、瀬戸の事である、きっとお盆の期間中に墓参りは済んでいるだろうと推測する。
そういう一般的な礼儀作法については非常に厳しいのだ。
「父さんは・・・行かなかったのかな・・・?」
出張中である、現実的に考えて行かなかっただろうと。
もしからしたら、その事を含めて瀬戸に頼んであるのかも知れない。
「僕は・・・母さんに何を話せばいいんだろう・・・。」
残された人間がただ泣いてるだけなんて思うなよ!