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貴方と背中を合わせる理由。(仮)  作者: はつい
第捌縁:送受信してみたら・・・・・・?
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第C&Ⅲ十Ⅰ話:バンダ大爆進。

『私、結婚するの。ずっと夢だったの、自分の家族を持つコトが。』


 自分に対してそう幸せそうに微笑んだ彼女を、鈴村は一生忘れないだろう。

そんな彼女が亡くなったと聞いて、必死に彼女の行方を探した。

自分の家族を持つという夢を叶え、早逝した彼女は本当に幸せだったのだろうかと。

ただそれを知りたかった。

しかし・・・。


「鈴村さん?」


 心配そうに自分の顔を覗き込む少年。

彼に出逢って、新たな家族を手に入れられた彼女は、きっと不幸ではなかったのだろう。

今はそれくらは断言出来る。


「少々、考え事をしていまして・・・。」


 ただ彼女が愛した息子が、まさかあんな孤独な状況に追い込まれているとは思ってもみなかった。

心配で竜木にそれとなく様子を見てきてくれるようにと、頼んだくらいだ。


(まさか、瀬戸(あのヤロォ)が面倒見ているとは思わなかったですが・・・。)


 鈴村にとって、瀬戸は清音にまとわりついていた気に入らない人間、天敵というヤツだったが、彼(彼女?)の方こそ、征樹を悪く扱う事など有り得なかったので、とやかく言うつもりは無かった。


「そう・・・あ、コレ。」


 深く思案していた鈴村に、征樹が紙袋を差し出す。


「これは?」


「そ、その、この前は迷惑をかけてごめんなさい。えと、お詫びじゃないけど、お菓子持って来て・・・。」


 申し訳なさそうに菓子折りらしき物を自分に捧げる征樹があまりにも可愛らしくて、鈴村は思わず征樹ごと抱きしめたい衝動に駆られる・・・が、ぐっと我慢。


「迷惑だなんて。気にしてませんよ。でも、これはありがたく頂いておきますね?」


 本当にあれくらいは征樹を守る為には屁でも無かった。

かと言って、征樹が選んで持って来てくれた詫びの品を突っ返すのは別の話だ。


「何が好きなのか解らなかったから、僕が好きなお菓子を買ってきちゃったんだけど・・・。」


「征樹様が好きなお菓子ですか?」


 はて、それはなんだろう?

鈴村には非常に興味がある。


「うん。」


「開けても?」


 こっくりと征樹が頷くのを確認してから、包み紙を丁寧に開く。


「これは・・・。」


『可愛いわよね、ただのお饅頭なんだけれど、"ひよこ"の形してるのよー。本当、可愛い♪』


 手の平に乗せて、様々な角度で眺めている女性の光景が、鈴村の脳裏に浮かぶ。


「こ、これが好きなのですか?」


「子供っぽいでしょう?でも、なんか好きで・・・。饅頭をわざわざ"ひよこ"の形にしているのが特に。」


 征樹にはっきりとした記憶はないのだろう。

それでも、彼女の、鈴村が愛した清音という女性の生が、征樹に受け継がれている事がなによりも嬉しかった。


「気に・・・入らなかった?」


「え?あ、いえいえ。偶然ですね、私もコレ、好きなんですよ。可愛らしいですよね。」


 鈴村のその言葉にほっとすると同時に、征樹は可愛いモノ好きなんて、鈴村もやっぱり女性なんだな、と失礼極まりない事を思う。


「征樹様、この後のご予定は?宜しければ、お茶でも。」


「あ・・・キルシェにニアに会いに行くって"約束"しちゃったから・・・。」


 実際のところ、キルシェはそう強制したわけではないが。

征樹自身もニアの事は気になるところだった。


(余計な事を・・・。)


 キルシェ、許すまじ。

本気で締め上げてやろうと、鈴村は一人決意していた。


「いや、いいんですよ。また遊びに来てくださいますか?」


「迷惑じゃないなら。」


「大歓迎です。」


 もう完全に萌狂っている感のある鈴村。


「えと、あの・・・。」


「?」


 もごもごと言い澱む征樹に首を傾げる。


「今度、お母様のお墓参りにでも一緒に参りましょうか?」


 先に、鈴村がそう告げる。


「あ・・・考えておきます。」


 まだ何処か心の整理が出来ていないのだろうと、征樹のはっきりとしない態度にそう結論づける。

でも、いつかは二人で行けるといい。

それまで気長に待とうと鈴村は思う。

まだこれから、時間は沢山あるのだから。


「じゃ、僕はこれで・・・。えと・・・あー・・・またね、"ランラン"」 「ッ?!」


 カタまる鈴村。

対照的に顔を真っ赤にして、征樹は走り去って行く。


『征樹、オマエ、一度あの堅物を"ランラン"と呼んでみろ。喜ぶぞ。』


 鈴村 蘭(すずむら らん)

鈴が"リンリン"

で、

蘭が"ランラン"

前者のあだ名は、キルシェが便乗してつけたモノだ。

後者は征樹の母、清音がつけたモノ。

どちらにしても"パンダ"には変わりはないのだが。

それでも、キルシェに呼ばれるよりは、月とスッポン、天と地の差だ。

もう二度と呼ばれる事は無いと思っていた感覚が、鈴村の心身に蘇ったのだが・・・。


「キルシェ・・・覚えておきなさい。」


 それとこれとは別問題であったらしい。

合掌。

おかしいな、当初の設定では鈴村さんは、もっと腹黒だったのに・・・いや、今も毒舌だけど。

ひよこ饅頭は吉野堂さんが大正元年から作っている、生誕100年をこえる歴史あるお菓子です。

ご賞味あれw

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