第ⅩⅢ話:少年のモノゴコロは暗闇の海に。
モノゴコロついた時は一人だった。
小さな自分。
(何だ、夢か。)
征樹はそう自覚した。
母が亡くなった直後の夢だ。
葬式の間、父は一度も自分には声をかけなかった。
それどころか、見もしなかった。
その時、あぁ、"この人は自分の父じゃないんだ"だからなんだと思った。
子供心に。
子供心だから。
今、考え直すと、自分の父ではなく母の夫だったのだと思う。
母が居て喜ぶ存在の一つだったから、父は自分を気にかけていたが、その母はもういない。
だから興味もない。
子供心ながらとはいえ、我ながら的を得ている表現だ。
そして、母の四十九日が終わるのを待つどころか、葬式が終わって数日で祖父母に預けられた。
父とはもう二度と会わないのだろうと感じたのを覚えている。
つまり、"自分は要らない子になったんだ"と。
それからの日々は特に何も覚えてはいない。
・・・少し語弊があるか。
植木職人の祖父は今で言うガーデニングを教えたがり、それに対抗してか祖母は料理を教えたがった。
何を軟弱なと祖父は更に合気道を教え、野蛮な子になったらどうすると祖母は茶道を教えた。
互いに悪気があるワケでもないし、二人が喧嘩するのも困るので、自分は文句無くかつ満遍なく学んで覚えいった。
自分の事を可愛がってくれているとは理解していたが、それは孫だからであって"葵 征樹"という個人ではない。
今にして思えば、なんとヒネたガキだったんだろうと思う。
でも、その考えは余り変わってはいない。
第一、家族なんてモノを感じる時間なんて、ほとんどなかったし、自分が愛される人間だなんて一度たりとも思った事も感じた事もない。
母が生きていた時は?
どうだっただろう?
考えても思い出せない。
それに自分は父に捨てられた要らない子供だ。
今だって独りだ。
独りのまま生きてる。
独りのまま・・・。
何で生きているのだろう?
そもそも、どうして今まで生きていたんだろう?
生きてる理由・・・。
(なぁんだ、何にもないんじゃん、僕・・・。)
辿り着いた答えに征樹は、すぅっと楽になった気がした。
もう真っ暗で、小さな頃の自分もいないその場所。
真っ黒い海。
今の自分と同じ・・・。
ただ、少し寒いような気がしたけれど。
それも・・・些細な事だ。
全部。
全部・・・