第C&ⅩⅩⅧ話:感謝の行き場。
最近、本当に困惑する事が多くなったと征樹は常々実感している。
そして、そのせいで考える事柄・時間が多くなった。
「流石に・・・。」
目の前にそびえる門。
今回の征樹の悩みのテーマ(?)は、これだった。
「何をどう切り出したら・・・いいのやら・・・。」
手に下げた袋を見つめて、溜め息を一つつく。
この袋の中身は、菓子折りだ。
鈴村へのお詫びと感謝の品である。
バイトの時間が少なくなっていた征樹が、何を選ぼうか悩んでいたら、理由を聞いた琴音が半分出してくれた。
つまり、そんな征樹が向かった先は、鈴村がいある例の屋敷である。
通りすがりの鈴村にまで迷惑をかけてしまったのだから、流石にこれは菓子折りの一つや二つくらいは言わなければ、礼儀知らずもいいところ。
それくらいは征樹にだって解る。
ちなみに、菓子折りの中身を何にするかでまた悩み込んだりしたのは、内緒のハナシだ。
ついでにそれくらい自分は鈴村に関して、何も知らないという事である。
初めて出会った時は、母や学校の話ばかりで、鈴村自身に関してはあまり聞かなかった。
「あれはあれで、テンション高かったんだろうな・・・僕。」
我ながら、心の許容量が乏しいと思いながら、また一つ溜め息。
「何処かで聞いた溜め息だと思えば、またオマエか・・・。」
最近、聞きなれた声と分類してもいいその声に征樹は振り向く。
やや下方気味に。
「キルシェ、どうしてここに?」
「どうしても何も、オマエこそ、何故このような場所におる?」
質問に対して、質問で返されてしまうと、発する言葉もない。
「えぇと・・人に会いに?」
「?何故にそのように疑問系なのだ?自分が誰に会いに来たのかも解らんのか?」
そういう意味合いで言ったわけではないが、そうとしか征樹には言えないのだから仕方がない。
「いや、あの、えっと、鈴村さんという人に会いに・・・。」
「はぁ?!オマエ、アイツと知り合いなのか?!というか、アイツ友達いたのか?!」
(・・・友達とは言ってないんだけど・・・。)
キルシェのあまりの勢いの強さに、言葉を飲み込む。
「いや、うぅむ、しかし・・・。」
今度は一転、悩み出す小さいけれども大人の女性一人。
「しかし、しかしだ、これはこれで面白い。」
(ナニが?)
「よし。ヤツの所へ連れて行ってやろう。来い。」
「え、あ・・・。」
実は未だに心の準備が出来ていない。
第一、一体どんな表情で、何と声をかけたらいいのか解らない。
「アイツはああ見えてシャイだからな。何て言ったか?あれだ、"ツンドラ"ってヤツだ。」
「それを言うなら・・・"ツンデレ"なんじゃ・・・。」
しかし、ツンドラというのもながち間違いではないという事に征樹は気づく。
特に、大人の男性の腕を気絶するまで捻り上げた姿を見た後では、尚更にそう思う。
「うむ。そうとも言うな。」
やっぱりわざとなのかも知れないと認識する征樹。
「あの、キルシェはどうしてここに?」
「ん?あぁ、このバカデカい屋敷の隣に施設があってな、そこで教師をしている。主に日本語のな。」
「そうなんだ・・・。」
施設というのは、例の学校の事だろう。
元々、キルシェの日本語は堪能な方であるし、外見的な偏見やイジメにあった事のある生徒達には、心理的に楽なのかも知れない。
「あ、ニアもそこに通っているから、用事が終わったら会いにでも行ってやってくれ。ま、気が向いたらでいいからな?」
「うん、そうする。」
ニアが通っているという事実も征樹的には驚く事ではなかった。
ニアはキルシェの事を強く慕っているし、日本語が上手い方ではない。
この学校の主旨に合った生徒と言えよう。
「そうか・・・すまぬな。」
なんだかんだ言って、この姉妹はきちんと想い合えている。
征樹は、心底それを羨ましく思った。
「うん。」
ツンデレはもう古い!次はツンドラだ!(ナニソレ?)