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貴方と背中を合わせる理由。(仮)  作者: はつい
第捌縁:送受信してみたら・・・・・・?
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第C&ⅩⅩⅥ話:さぁ、キャッチボールを始めよう。

ひなまちゅりー♪

 あの事件。

あれから征樹は静流と二人で警察を後にし、二人にとって少々慣れ始めた"我が家"にタクシーで帰った。

タクシーの車中で、静流と征樹は手を繋いで・・・それは帰宅するまでの間、ずっとだった。

そこには不安や恐怖の残滓があったのかも知れない。

或いは、愛情や甘えだったのかも。

ただ事実としてあるのは、二人がそうしている事を望んだという事だ。


「ただいま。」


 こちらも大分言い慣れたフレーズだ。


「おかえりなさい。」


 二人を柔和な笑みと優しい声で迎えたのは、琴音だった。


「琴姉ぇ・・・。」


 彼女を前にして、どう説明したら良いのか、そもそもまずなんと第一声を上げればいいのか解らない。

困り果てて眉間に皺を寄せたまま、泣きそうな表情をする征樹に対して、琴音は何も言わずにゆっくりと両手を広げる。

丁度、人が一人分入れるだけのスペース。

そこに何が入り、それが何を意味するかなど、誰の目にも明らかだった。

彼女の腕の中に、征樹が飛び込む。


「・・・ごめんなさい。」


「いいのよ。私の方が逆に征樹ちゃんに迷惑かけちゃったわね。」


 征樹を包み込んで、琴音は彼の頭を優しく撫でる。

静流とはまた違った柔らかさと温もり。

キルシェが征樹に言った、伝達手段も形も違う愛情という名の温もりとは、こういう事なのだろうかと征樹は漠然と考える。


「私は大丈夫よ?」


 一撫で一撫でに想いを籠めて。


(良かった・・・。)


 二人の光景を眺めながら、静流は素直にそう思っていた。

今回は何処にも何時ものような劣等感や嫉妬の類いは無い。

自分も既にこれと同じような事をしてきたからだというのもある。

しかも、衆人環視のもとで。

大の大人が泣きじゃくりながらだ。


(ちょっと、アレは恥ずかしかったわね。)


 全くだ。


「もう大丈夫だから・・・これからずぅっと征樹ちゃんが"望むだけ"ずぅっと一緒にいるから。」


(え゛?)


 それとこれとは話が違う。

それは聞き捨てなら無い言葉だ。


「琴音さん・・・?」


「私は征樹ちゃんの"お姉ちゃんですからね~。ちゃんと掴まえててね?お姉ちゃんを放したら、めーっ、よ?」


 うふふふ~っと笑う顔に"してやったり"と書かれている。

少なくとも静流にだけはそう見えた。

取り様によっては、いや、どう考えても、これはどさくさ紛れの"告白"にしか聞こえないではないか!

何だ、この茶番は?!と思わず声を上げそうになる。


「琴姉ぇ?」


 自分の頭の上から聞こえる声に、微妙な差異を感じて顔を上げる征樹。


「なんでもないですよ~?あぁ、折角だから、今日は姉弟仲良くお風呂にでも入ろうかしらぁ。お姉ちゃんが背中流してあげますよ~。」


 チラリ。

これ見よがしに静流を見る。

今度は静流の思い込みでも、勘違いでもない。


「なっ?!」


「いや、それは・・・。」


「旅行の時も入ったのだから、今更照れなくても、ね?」


 ね?ではない。

これには静流どころか、征樹も困った。

これもキルシェが言っていた、愛情の伝達手段の一つなのだろうか?

だとしたら、拒否しづらい。

そんな思考が征樹の脳裏にぐるぐると渦巻く。

実際のところ、考えるまでもなく、それは違うと突っ込みたくなる話ではある。

だが、自分に向けられる愛情というモノがよく理解出来てない征樹に、その種類まで見分けろというのは酷な話だ。

これでも征樹にとっては真剣なのだ。


「琴音さん、それはちょっと・・・。」


 教育によろしくない。

とりあえずはそういう建前で、静流は琴音の暴走(?)を阻止しようと試みる。


「ん~、じゃあ、三人で入りましょうか。」


「は?」 「え?」


 また奇妙な方向に話がいったものである。


「三人で入れる広さはあるから、大丈夫♪」


 そういう問題でもない。

寧ろ、それ以前の問題である。


「それも少し・・・。」


「静流さんも征樹ちゃんとお風呂、入った事あるんだから、今更よねぇ?」


「うっ・・・。」


 痛い所を突かれてしまい反論出来ない。

ハプニングではあったが、事実である以上、言い返す事など出来るはずが無かった。

ただ、静流が征樹と一緒に入ったという証拠はどこにもないのだが、精神的な余裕のない今の静流は、それすらも気づかない。


「うふふふ。"今夜"は楽しくなりそうねぇ。」


(なんだ、コレ・・・。)


 不穏な笑い声の中で、静流は固まったまま、征樹は少々"愛情"というもの扱いを持て余しつつ、色々な意味で事件の夜は更ける・・・。

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