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貴方と背中を合わせる理由。(仮)  作者: はつい
第漆縁:新たな道を模索してみたら・・・・・・?
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第C&ⅩⅩⅤ話:言葉で態度で温もりで。

今章ラストです。

 パトカーが2台。

それが征樹達の迎えだった。

今日は車によく乗るな、と思いながら。

征樹は鈴村と一緒に乗り込んで(当然、"加害者"は別車輌だ)、警察へ向かった。

ニアは特に関係してなかったので、目撃者として住所・氏名・連絡先だけを言って、解放されている。

警察に行き、まず最初に征樹は傷の治療を受けた。

勿論、きちんと薬品での消毒だ。

幸い、傷は深くなく縫うという程ではなかったので、白いガーゼを頬一面に貼られ、つまりでっかい絆創膏だ。

それが終わると、鈴村とは別々に事情を聞かれ、怪我をした征樹が"被害者"という事で、被害届けを出した。


『災難だったねぇ、君。』


 被害届けを書く時に、係りの者にそういわれた時、征樹はなんと答えたらいいのか解らず、終始無言だった。

本当は被害届自体、征樹は書こうかどうか迷ったのだが、鈴村に言われた言葉を思い出すと出さざるを得なかった。

第一、これを出してしまえば、もうこの問題にはしばらく煩わされずに済む。

琴音も新たな生活を始める事だって楽になるだろう。


「・・・・・・なんて話そう。」


 それが問題で、憂鬱だった。

煩雑な全ての事務手続きが終わって、思わず力が抜けた征樹はずるずると壁に身体を預けて座り込む。

本当にこれで良かったのだろうかと・・・全て終わったと思っても良いのだろうかと。


「征樹ッ!」


「はぇ?」


 自分の名を叫ぶ声に、間の抜けた声で反応する。

完全に脱力して、死んだ魚の目のようになっている征樹に駆け寄って来るのは、静流である。

顔面蒼白の静流。

その後ろには、冬子の顔も見える。

現在、征樹の保護者代わりは静流なのだから、彼女に連絡がいくのは当然の流れだ。

冬子は琴音の担当しているからだと、憶測する。


「静流さん・・・。」 「静流さんじゃない!怪我は?!具合いはどうなの?!」


 征樹の肩を痛いくらいガッシリと掴んで揺らす。


「大丈夫、痕も残らないだろうって・・・。」


「・・・そう。」


 ぽろりと静流の瞳から滴が垂れると、次の瞬間、傷ついた頬と反対側に彼女のビンタが炸裂する。


「馬鹿ッ!なんて危ない事をしたの!」


 征樹の知っている何時もの彼女とは全く別の、見た事がない静流がそこにいた。

ボロボロと次から次に大粒の涙をこぼす静流。

よく見ると微かに震えているようにも見える。


「琴音さんに・・・心配かけたくなくて・・・。」


「そういうのは私達に任せておけばいいの!その為に、その為に私達がいるのよ?!」


 尚も取り乱す静流。

未だに涙は止む気配はない。


「警察から連絡があって、怪我したって聞いて、どんなに心配したか!」


 生きた心地がしないとは、ああいう事を言うのだろうと静流は思った。

本当にどうにかなってしまいそうで・・・。


「もし、何かあったら、取り返しのつかない事になったら・・・私は・・・私は・・・。」


 想像すらしたくない。

したくはないが、きっとマトモな状態ではいられなくなるだろうと静流は思う。


「ほら、こういう時はなんて言うのかしら?」


 完全に取り乱している静流の後ろで、冬子がジト目で征樹を見ている。

表情こそ何時もと変わらないが、征樹には充分彼女が怒っている、いや、拗ねているのが解った。

恐らく、こういう状況になるまで話さなかった事をだ。

昔から、彼女は征樹の自主性に任せてくれる放任主義的な所はあったが、それは征樹の自立を促す為のモノであって、決して放っておいているわけではない。

寧ろ、困ったら積極的に相談してくれるのを望んでいるのだ。

それを今回は全くしなかったから、だからのこの態度である。


「・・・ごめんなさい。」


 その言葉で泣きじゃくっていた静流は、思い切り征樹を抱き締めた。


「お願い。もうこんな事はしないで・・・お願い・・・。」


 静流の辛そうな態度に、ふつふつと罪悪感がこみ上げて来た征樹は、両手で彼女の身体を抱く。

ちょっと前まで感じていたキルシェの時と同じように鼓動の音と温もりが伝わってくる。


「うん・・・。」


「お願いだから・・・。」


「うん・・・ごめんなさい。」


 二度目のごめんなさいの言葉は、素直に口から、自然に出す事が出来た。

これも、キルシェとの会話があったからこそだと感じる。


「・・・めでたし、めでたしかな?さぁて、後は私の仕事ね。」


 二人の光景を見ていた冬子が一人、小さく呟く。

琴音の離婚は成立したが、彼女の元夫は傷害罪、下手をしたら殺人未遂で犯罪者となる。

こうなると、今後、琴音やその周りの人間、今回の場合のように征樹の身に危険が及ぶ可能性は高い。

ストーカー規制法での訴えも場合によっては考えねばならないだろうと、脳内で検討する。

幸い、征樹につきまとっていた節があったという客観的事実がある。

なんとかなるだろう。


「あのコの為だものね。」


 温かい眼差しで、冬子は二人を見つめるのだった。

そして、そんな冬子達を更に見つめる影が。


「今回は、もう出番はないですかね。」


 鈴村である。


「ここにいても厄介な人と出会いそうですし、下手したら"あの野郎"も来そうですから・・・退散・・・ですかね。」


 そう呟くと、鈴村は征樹に声をかける事なく、その場から立ち去った。

ご愛読ありがとうございます。

今章ラストです。

次からは再び、アホなテンションに戻ると思いますので(苦笑)

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