第C&ⅩⅩⅡ話:おっきぃあのコはちっさかった。
多少の驚きはあったものの、それからは和気藹々と征樹はキルシェ達の家で過ごせた。
あくまで征樹の中なので、その程度はたかが知れてはいたが。
言葉自体は少なめではあるが、キルシェの言葉(主に互いの事に関するモノ)に対して、征樹が答え、時折ポツリとニアが、日本語の言い回しについて聞くというカンジだ。
それによると、二人はロシア系と日本人とのハーフで、キルシェは今年で(なんと!)25才、ニアとは一回り、征樹ですら10は歳が離れている事が判明した。
髪の色の違いは、ニアが父親似、キルシェが母親似らしい。
「なんだ?夕飯を食べて行かぬのか?」
そうこうしている間に時間は過ぎ、日も落ちかける頃合い。
夏なので、日の入りが遅いが、時刻はそこそこになっていた。
「今日は夕飯いらないって言ってきてないから・・・。」
では、自宅に連絡を入れれば良いのでは?と、誰しもが思うかも知れない。
だが、征樹は折角夕飯を作ってくれる静流の好意を無駄にしたくはなかった。
「そうか、ではまた次の機会だな?」
「うん。」
そんな征樹の意図を察してくれたのか否か、キルシェはあっさり引き下がった。
「丁度良いニア、夕飯の買い物ついでに征樹を送ってくれ。」
「いや、それは・・・。」
女性に送らせるというのもどうかと思った征樹は、固辞しようと声を・・・。
「ワカッタ。」
上げられなかった。
そのまま、なんの反論もなくニアが即答したからだ。
「ふむ。では、またな。」
押し切られた形となったわけだが、ニアがそれでいいのなら・・・自分は"ついで"だと考え直す事にして、キルシェの家を後にし、ニアと一緒に夕暮れの街へ出る。
「えと、いつもニア・・・ちゃんが夕食を作るの?」
どうにも年下に思えないニアの呼び方を、一瞬躊躇う。
「うん・・・。」
「偉いね。」
ニアくらいの歳には、征樹も自炊の真似事をしていたが、一人と二人分は大きく違う。
一人なら気分が乗らなければ、インスタント食品でも、極端な話食べなくても構わない。
そういえば、日々ナタ・デ・ココだけで過ごしたり、まるごとバナナだけで過ごしていた時期があったのを征樹は思い出した。
今にしてみればハマったというのだろう。
ちなみに長期休みに食べないまま3日程気にしてなかったら、たまたま冬子に見つかり、激怒された事もあった。
それも、その説教の間中、正座で。
「ロシア料理とかも作ったりする?」
「タマに・・・。」
次はポチにとか言うのだろうか。
少し発音がおかしい。
「へぇ。いいな。」
ロシア料理というモノの想像はつかないが、寒い国だから煮込み料理系が多いだろうと予想をつける。
今の季節は暑いから、クーラーをがんがんに効かせて食べると格別なのでは?と。
「マサキ・・・に、今度作ってアゲ・・・マス。」
「うん、ありがとう。」
「どうイタマシテ。」
流石に慣れてきた。
身長の高いニアだが、年下だと思うと少し照れ屋なところや、ちょっとした言い間違いも許せるというか、可愛らしく見えるから不思議だ。
(妹がいるのって、こんな感じなのかな・・・。)
親子という絆もよく理解出来ないのだ。
妹という存在なんて征樹に解るはずもない。
「どうか・・・シタ?」
心配層に征樹の顔を覗き込むニア。
その姿も可愛らしさと優しさを感じる。
「いや・・・ニアは良い子だなって。」
「ェ・・・・・・あぅ~。」
困ったり照れたり、とにかく追い詰められたりすると、唸るのがニアの癖らしい。
「そんなコト・・・ないデス。こんなオッキいし・・・言葉、ヘンだし、バカ・・・デス。」
自分で言ってしゅんと項垂れてしまう。
「大丈夫。そんな事で君の良さはなくならないから。」
外見は関係ない。
言葉は・・・日本語は難しい部類に入るだろうが、学習出来る。
「それに・・・。」
「ソレニ?」
(どちらかと言えば、杏奈の方がバ・・・。)
「いや、なんでもない。」