第C&ⅩⅩ話:闖入者、なぅ。
「お・・・?」 「?」
「姉サンが・・・男のヒトを"カゴメ"にしてル?!」
征樹とキルシェ、二人しかいないはずだった空間に割って入る声。
その声に征樹が閉じていた目を開く。
「誰がそんな事をするかっ!というか、それを言うのならば、"カゴメ"ではなく"テゴメ"だ、馬鹿者!」
征樹を包んでいた温もりが離れると、その持ち主であるキルシェは、割って入った人物に飛び掛っていった。
「いつ、私が"トマト"になったのだ!」
「あぅ~、ゴメンナサ~イッ。」
飛び掛るというより、飛び蹴り。
飛び蹴りというより、技名:ドロップキック。
「あれ?君は・・・。」
ドロップキックをくらった人間を見て、何処かで見えた顔だと気づく。
それに独特の言い間違いも、ばっちりデジャ・ヴュ。
「えぇと・・・誰だっけ?」
確実に会った事はある。
何処で会ったのかも征樹にしては珍しくはっきりと言える。
言えるが、肝心の名前が出て来ない。
それもそのはずで、征樹は彼女の名前を知らなかったのだ。
「あ、あの時の親切ナ、オ兄サン。」
「のわっ?!」
腹の上に馬乗りになっているキルシェをあっさりと引き剥がし、投げ捨てると、その女性は正座をして、深々と征樹にお辞儀をする。
「そのフシは、大変オ世話になりマシタ。」
「あ、えと、気にしないで。」
「フシではない。その漢字は"節"と読むのだ、ニア。」
「エ?」
投げ飛ばされた拍子に打ったのだろう腰を擦りながら、キルシェは起き上がり発言を訂正する。
「全く、身体ばかりデカくなりおって、馬鹿力め。あぁ、コレは私の妹のニアだ。トーニャ・オーランドで、愛称がニアだ。」
「あ・・・よろしく。」
事態がよく飲み込めないまま、征樹はそう応える。
「フツツカモノですが、宜しくお願いシマス。」
「嫁にでも行く気か、オマエは。」
ニアの言い間違いの連発に頭痛がしてきたのか、頭を押さえるキルシェだが、突っ込みだけは止めないらしい。
「まぁ、オマエにやった白い帽子。あれがまた私の元へ戻ってきたのは、そういうワケだ。妹が世話になったな。」
白い麦わら帽子。
それは征樹がキルシェから貰って、目の前の女性に渡した物。
ニアは旅先の旅館で出会ったあの女性。
「でも、ドウシテ、アナタがココにイルの?」
「あ、うん、えぇと・・・。」
その質問に答えるのにまた時間がかかりそうだな、と征樹は思いながらニアを眺めると、彼女は興味津々といった様子で目を輝かせていた。
征樹はまずどう切り出したらよいか、思案しつつ思わずキルシェを見てしまうのだが・・・。
「ん?これが縁というヤツだ。な?馬鹿に出来んだろう?」
征樹の想像通り、勝ち誇ったあの笑みが返ってくるだけだった。
「また・・・縁?」
「そうだニア。どうやら私達姉妹は、この少年に縁があるらしいぞ。」
無理矢理に結び付けられたような作為を感じるが、事実そんな事はなく、本当に偶然の産物だ。
いや、キルシェと海で出会った時、近くの宿に泊まっている=自分達の泊まっている宿の可能性というのを考慮にいれても良かったはずなのだが。
(やっぱり浮かれてたのか・・・。)
そう自己分析する征樹。
「さて、とりあえずニア、鯛焼きを皿に出して持って来るがいい。三人で一緒に食そうではないか。」
「うん。持ってクル。」
素直に返事をして、台所に行くニアの様子をうんうんと満足げなキルシェ。
彼女に対して少々複雑な心境の征樹であった。