第C&ⅩⅧ:親と子。
葵 征樹という名の人生。
それを征樹はキルシェに語った。
彼がどんな人間なのか、それをキルシェに知ってもらうに等しいだろう。
いや、人一人をこの短時間で理解しろというのも土台無理だ。
ただ、どういう人間なのか、その判断を相手に委ねる事は出来る。
幼い頃に母を亡くした事、父との接点も皆無な事。
幼少期は祖父母に育てられたが、結局そこでも馴染めず・・・と、以前、琴音に述べたのと同じような事柄を彼女に話した。
そして、突然、自分の周りに人間が増えた事、最近の事柄もそこに追加した。
征樹が話している間、キルシェは終始無言で、時折、頷きながらも聞き続けるという姿勢。
「ふむ。」
ひとしきり征樹の話を聞くと、キルシェは立ち上がり、そして本日2杯目の茶を征樹の湯呑みと自分の湯呑みに注いだ。
「まぁ、なんだ、父君の事だが、ただ単に見失っとるのだろうよ。」
茶を注ぎ終え、元々座っていた場所に腰を下ろしながら呟く。
「見失う?」
「父君だって、最愛の存在を失ったんだからな、なんとも思わんわけがない。ただ困った、戸惑ったのだろう。」
戸惑う?
更に征樹は首を傾げる。
「今まで、妻越しに見ているだけだった息子が、突然何のフィルターもなしに間近にいるのだからな、どうしたらよいものか、考えるのは当然だろう?」
「そういうモノなのかな?」
征樹は湯呑みをそっと握る。
先程とはうって変わって、彼の手にその熱を伝えてくる。
「でなければ、自分の友人や部下に息子を頼むか?無責任な親というものは何時の世にも、何処にでもいるが、そういった輩は誰かに息子の面倒を頼むなんて事すらせん。」
果たしてそうなのだろうか?
いまいち納得しきれない。
「息子との距離感を取れぬだけ父親はまだマシだろう?・・・祖父母の方々は、まぁ、なんだ、運が悪いというかな、孫を好き放題したがるのは性分だ。」
苦笑しながら、一口湯呑みの中の茶を啜る。
「本来、それを止めるのも親の仕事なんだがな。」
やはり納得出来ない征樹。
俯いたまま、視線は湯呑みの中の茶を見つめたままだ。
「納得できんか?確かに本人の言質を得たというわけではないな。全部、私の憶測だ。でもな、もし、そうでなかったとしたら・・・。」
「なかったとしたら?」
含みを持たせるキルシェの言い回しに思わず、彼女の顔、瞳を見る。
「・・・そんな親、こちらから無視して、捨ててしまえ。」
「は?」
独特のニヤリとした笑みを浮かべるキルシェ。
対して、征樹はぽかーんと口を開く。
「そんなモン、オマエの人生にとって、百害あって一利ナシ。なんの得にもならん。なら、オマエから捨ててやれ。」
征樹というか、日本人的になかなか思いつかない発想だった。
それだけに、征樹の衝撃も半端なモノではなかった。
親の人生と子供の人生、それは完全に別だ。
親子の絆というモノで結ばれていても、征樹達の間にそれがないのならば、離れていくのは道理である。
「第一、もうオマエにはいるではないか。オマエを想ってくれている者達が。違うか?」
その通りだった。
今は自分の周りにいる者達に、自分が葵 征樹として、何が出来るかを考える方が大事なのかも知れない。
彼女達は、そんな自分の傍にいてくれるのだから。
「こんな僕の話を真面目に聞いてくれるキルシェみたいな人もいる・・・から?」
「む?う、うぅむ。まぁ、そういう事だな。」
キルシェは少し照れながら、手に持った湯呑みの茶を一気に呷った。
なーんか、シリアスになる度に人気が落ちる今日この頃・・・どうしたものか・・・。