第C&ⅩⅥ話:ちっちゃいってコトは?
結局、征樹がメモの電話番号に連絡したのは、メモを手に入れてから数日後の事だった。
その間、何か特段忙しかったとか、問題が発生したとか、そういう理由ではない。
どのタイミングで電話をかけたらよいものか、或いはかけた電話に望んだ相手が出なかったら、という事を考えしまったからだ。
果たしてそれは、征樹の杞憂なだけで、電話の向こうの相手の返事は『何故、もっと早く電話してこぬ!(怒)』というものだった。
怒るキルシェには悪いと思いながらも、電話がかかってくるのを待っていてもらえたというのが少し嬉しく、そして照れる。
「最近、ちょっと欲張りになっている気がする・・・。」
誰かが傍らにいる事が多い、最近の征樹の生活を指して言っているのだが、しかし、この状況を欲張りといっても、どちらかといえば、欲の無い方に部類されるのだが・・・。
「下手な考え、ハゲるに似たりだぞ?」
「ん?」
待ち合わせに指定された駅の広場で、征樹はようやくキルシェと再会できた。
それは良かったのだが・・・。
「どうした?」
「・・・何か最近、同じ事を言われたような。」
自分はそんなにハゲそうな体質の人間に見えるのだろうか?
なるべくハゲたくはない。
そう思う征樹だった。
「年中、しかめっ面していれば、誰でもそう言いたくなるものだ、全く。」
キルシェは完全に呆れた表情で征樹を見る。
「ふむ。ここではなんだ、我が家に招いてやるから来い。」
相変わらずの尊大な態度と物言いだが、これでも征樹の事を考えているのだ。
「んと・・・行って大丈夫なの?」
「なんだ?家に来るのは嫌か?一応、茶菓子くらいは出すぞ?」
「そうじゃなくて・・・。」
出会ってから日が浅い少女の家に、(一応)男が上がり込むのも常識的に問題があるのではないだろうか?
そういった意味での征樹の発言だったのだ、キルシェにはうまく伝わらなかったらしい。
「ん?あぁ、気にするな。今は家の者は誰もおらん。」
余計に気にする事態だ。
やはり、ちゃんと伝わっていなかった。
「それに、ここからそんな遠いわけでもない。そうだな・・・"車で"10分程か。」
「充分遠いような・・・。」
車で10分。
通るルートの信号や待ち時間もあるが、そのくらいの時間だと征樹の足では約30分程かかる。
それは、そこそこの距離だ。
「10分も待てんのか?せっかちなヤツめ。」
「せっかっちって・・・10分は・・・。」
「車で移動する10分も待てんのだろう?」
「いや、それは車の話で。」
やっぱり何処か会話がズレている。
「勿論、私の"車"での移動だ。」
車の鍵を取り出し、チャリっと音をさせて指先で回してみせるキルシェ。
「えぇと・・・。」
仮に。
仮にキルシェが国際的なライセンスを持っていたとして、いや、そうでなくても車の免許を持っているという事は、日本の法律でいうところの18歳は超えている。
少なくとも、目の前の少女は征樹より年上という事だ。
「キルシェって・・・年、幾つ?」
普段の征樹では、絶対に言わない言葉だったろう。
ただでさえ、彼は他人への興味が薄いのだから。
しかし、今の征樹は少々、取り乱していた。
どう見ても、征樹の目の前にいる少女は、自分より年下・・・もしくは、同年代にしか見えない。
「レディに歳を聞くのか、オマエはっ。」
ていっという掛け声と共に征樹の鳩尾に、キルシェのチョップが入る。
それも随分と小さな手だ。
鈍い痛みが響く腹部を手で押さえながらも、その小さな手が可愛いと思った征樹。
「まぁ、いい。ほら、さっさと行くぞ。」
征樹の疑問に全く答える事なくスルーして、キルシェは車まで征樹を促した。