第C&ⅩⅤ話:家族の線引き。
(何故、あんなに盛り上がれるんだろう?)
二人が取り出した下着(紙袋に入っていた)の柄やデザインの可愛さに、静流も参入してあーでもない、こーでもないと言い出している事を指している。
勿論、征樹は居た堪れなくて、その場からさっさと自室へ退散した。
『征樹はセクシー系より、可愛い系だよね?』
そんな質問にどう答えろというのだろう?
冷静に思い返して、辟易する。
大体、女性下着のセクシー系とか可愛い系とかの違いが、既によく解らない。
よって、征樹には答える事は到底無理だという事だ。
「それよりも大事なのは、中身だと思うんだけれど・・・。」
そう呟いて、"中身"というのは、そういう意味ではなくて、と軽くセルフツッコミ。
溜め息を一つついて、胸の中に丁寧に収納されていた紙切れを取り出す。
中身はキルシェに貰った電話番号だ。
ただの数字の羅列だが、この数字達が征樹を彼女の元へと導いてくれる・・・はず。
「携帯は・・・諦めるしかないな。」
征樹は残念そうにそう結論づける。
あれから、調べ直したが、やはり未成年の携帯契約には、征樹の記憶通り保護者の承諾が必要だった。
(瀬戸さん達にも頼めないしな。)
更に携帯は名義と違う人物に、これを譲渡するのは違法だった。
勿論、保護者ないし、家族名義の携帯を貰うのは、この限りではない。
だが、瀬戸も冬子も保護者代わりではあるが、法律上は保護者でも家族でもなんでもない。
はっきりとそう確認する事があると、自分が独りだという感覚・実感が湧いてきて、征樹はちょっぴり憂鬱になる。
だが、一定の割り合い以上落ち込むと、元々独りだったじゃないかと、すぐに開き直った。
この開き直り方は、ある意味大問題なのだが、征樹はそんな事は微塵も思わなかった。
だから、余計に葵 征樹という人間は、静流達にとって、危ういバランスで成り立っているように見えるのだ。
「金曜日・・・かな。」
キルシェが普段、何をしているのか解らないが、土日のどちらかが休みと仮定して、金曜日辺りに連絡を取ろうと征樹は思った。
勿論、それは家の電話からかけてだ。
「征樹~、夕飯、何する~?」
部屋の扉の外から聞こえる声、杏奈だ。
「・・・夕飯、食べて行く気だったのか。」
わざわざ、征樹の自宅まで寄ったのは、そういうワケだったのかと理解する征樹。
てっきり、下着を見せびらかして、自分を困らせる、或いはからかう為だと思ってばかりいた。
「冷蔵庫にあるもので、作れるものなら、なんでもいいよ。」
「も~、なんでもいいってのが、一番困るんだからね!」
別に投げやりで征樹は答えたわけではない。
杏奈の作る料理は、とくかく征樹の口に合うのである。
味もさることながら、食材のチョイスとそのバランスを含めてだ。
という事で、何が出来て、何を出されたとしても、きっと征樹は美味しく食す事ができるだろうという意味からの言葉だ。
しかし、この事実は、何故だが征樹の癪に障るので、絶対杏奈には言わないと誓っている事でもあった。
「何が出て来るか、楽しみにしてるよ。」
かと言って、機嫌が悪くなって、折角作ってくれるという思いが、罰ゲームのような事になっても困るので、(夏の旅行で懲りた)そうとだけ言う事にする征樹。
「解った。出来たら呼ぶから、すぐ来るんだゾ?」
「あぁ。」
きっと奏もまだ居間にいるのだろう。
今夜の食事も、騒がしくなりそうだ。
そう思うと、また疲れと笑みがこぼれる征樹だった。
ちなみに、携帯の名義を譲渡される本人にして、料金を譲渡する側が払うという方法は違法ではありませんので、可能です。
征樹君はこういう時、融通が利かないですよね(苦笑)