第C&ⅩⅣ:話:ナンパのポイントは中身から?
「征樹くん、どうしたのかしら?」
杏奈、奏曰く、Wデートを終え、自宅に帰ってからの征樹の様子を見た静流は、思わず一緒に帰ってきた二人に問う。
「さぁ、なんなんですかねっ。」
杏奈の答えはこうだった。
彼女のこの感じからすると、何か気に食わない事があったというところまでは容易に想像がつく。
「えと、その知らない女の子に・・・。」
「女の子に?」
なんとか補足説明をしようと試みる奏の言葉に耳を傾けるも、奏自身もなかなか説明し難いらしい。
「ナンパされたのよ、ナ・ン・パ・!」
堪らず杏奈が声を荒げる。
「ナンパ・・・。」
"されてもおかしくはない。"
妙に静流は納得してしまう。
アウトドア派でもなく、白い肌と平均より小さめな身長、線の細さは、多少強引だがボーイッシュな女の子というのでもゴリ押し出来なくはない。
もっとも、今は海で日に焼けているし、もう少ししたら一段階目の声変わりも始まるだろう。
現状は可愛い男の子という意味で、周りの女性がもてはやすという事も考えられなくはない。
ただ、話しかけてみれば、非常に無愛想で驚く事、うけあいだが。
「征樹くんなら、ありえるんじゃないかしら・・・。」
「静流さんまで!征樹が女性にデレデレしているの見たいんですか?!」
(それは・・・嫌ね。)
想像もつかないが、征樹がデレるなら自分にして欲しい。
いや、少なくとも、杏奈・奏・琴音・・・ギリギリで冬子、この辺りでお願いしたいものだ。
全く知らない女性というのは遠慮願いたい。
そこは征樹次第ではあるが。
「ナンパじゃない。」
不機嫌に叫んでいる声が余りにも大きくて、征樹は呆れながら反論を始める。
「じゃ、何よ?」
「以前、一度お世話になった人。」
「お世話になった人・・・。」
嘘はついていない。
だが、杏奈はじぃーっと征樹の目を彼の意識の裏まで探るように上目遣いで見つめる。
「・・・。」 「・・・。」
無言で見つめ合う二人に奏と静流は、ただただ固唾を飲んで静観するしか出来なかった。
「嘘は・・・ついてないみたいね。」
「うん。」
(今ので解るのね。) (今ので解るんだ。)
静流と奏にとっては、ナンパ云々よりも、そっちの事実の方が驚きである。
「まぁ、いか・・・。」
杏奈は未だ疑惑の眼差しをもってはいるが、とりあえず征樹の主張を受け入れたようだ。
もっとも征樹自身は、何も後ろ暗い事がなかったので、杏奈に見つめられても、何の動揺もなかったのは当然の事だろう。
いや、ある意味では、見つめられても征樹が平然としているのは、杏奈にとって不幸な部類とも言えるのではないだろうか?
「そういえば、結局、みんなは何を買いに行ったのかしら?」
話題を変える意味も込めて、静流は質問する。
何を買ったのかも純粋に興味もあった。
「え?」 「あ。」
話題を振られた二人は、思い思いに自分達が持って来た買い物袋の元へ行く。
「えっと・・・。」
「じゃぁ~んっ。」
高々と掲げられる紙袋が二つ。
「良かった・・・紙袋に入っていて・・・というか、そのくらいの恥じらいがあって・・・。」
思わず、征樹は呟いた。
「ん?ナニナニ?中身、気になるのかなぁ?ん?」
ニヤニヤ笑みを征樹に向ける杏奈。
「あ、そ、その、葵くんが気になるなら、み、み、見せてもいです。」
杏奈の笑みにつられてか、奏までもがこんな事を言う始末だ。
朱に交わったせいだろうか?と、征樹は思う。
「・・・?結局、なんなのかしら?」
全く流れが掴めないでいるのが静流だ。
「征樹が"好きそうな"ランジェリーですっ!」 「・・・です。」
胸を張って言ってのける杏奈。
「・・・アホらし。」
杏奈に突っ込む気力も無くす男、一人。